今だからこそ語りたい。「歌舞伎を観るならこの席でしょ!」
「イヤホンガイド解説者のひろば(※注)」編集担当Aです。
この記事連載では、歌舞伎や文楽のイヤホンガイドで解説を担当している解説者たちの記事を掲載していきます。
解説者たちは、観劇好きが高じて、歌舞伎や文楽の魅力をもっとたくさんの方に伝えたいという思いでイヤホンガイド解説者になった人たちばかり。私たちスタッフとも、歌舞伎や文楽の話題で(ときには仕事を離れて、いや忘れて…?)よく盛り上がります。
この連載では、そんな、芝居のことをしゃべり出すと止まらなくなってしまう解説者たちのお話を掲載していきます。次回からは、解説者ひとりずつに登場してもらい、色々な記事をアップしていきますが、本格的に記事を開始する前に、観劇好きな解説者たちの雰囲気が少しでも伝わればと思い、こんな企画を立てました。
「歌舞伎を観るならこの席でしょ!」好きな座席アンケート~解説者編~
芝居を観るときにどこの席を選ぶのか。これ、歌舞伎に限らず観劇好きのあいだで盛り上がる話題のひとつかもしれません。劇場や舞台作品のタイプ、演目によっても変わってくるとは思いますが、「歌舞伎座ではこの席に座りたい!」を語ることで、歌舞伎というものの特徴が見えてくるかもしれない…?と、そこまでの論考には至れないとは思いますが、解説者の好きな席やお勧めの席について、イヤホンガイドらしく解説も少しだけ交えながらご紹介したいと思います。
どこの席に座りたい?とか言っても、いまちょうど【ソーシャルディスタンス】をとることを求められているなかで思うようにはいきませんが、やっぱり芝居好きとしては、ぎゅうぎゅう詰めの、満席の劇場で芝居を観る日が必ず来ることを待ち望んでしまうのです!だから、いまだからこそ語りたい話でもあるのです。
※この記事はお試しとして記事をすべて公開しています。
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1. やっぱり王道。「とちり席」
観劇好きな方はご存じかと思いますが、1階席の7~9列目の席は「とちり席」と呼ばれます。舞台に程よく近く、舞台全体も把握できる席で、一般的にいちばん見やすいと言われている席です。なんで「とちり」なのかというと、一列目から「い、ろ、は、に、・・・」と、いろはで列を数えていた頃の名残で、7列=と列、8列=ち列、9列=り列というわけです。
見やすい席…ということは、もちろん「一等席」。お値段も張ります。でもやっぱり、ここぞという時には、一等席の中でも自分ベストな席を選びたい!ですよね!
2. 異常に人気が高い<15番>の席
続いては、とちり席よりもっと前の方がお好みだというコメントです。
たしかに、1階席の前方席ではお着物やドレスアップした服装でご観劇されているお客様もよく見かけます。歌舞伎座はドレスコードなど特にありませんが、自分の気分を上げるためにめいっぱいおしゃれして観劇するというのも特別感があって楽しいものです。
…と、ここまででお気づきかもしれませんが、今回のアンケートで異常に人気が高かったのが<通路側15番>の席。
通路側というのは、前の席に背の高い方がいらっしゃっても少し傾けば視界がひらけるというのも利点のひとつでしょうか。
その他、「幕間にめでたい焼きを買いに走ったりしないといけないから」というコメントもありました。「めでたい焼き」は歌舞伎座客席3階ロビーで販売しているたい焼きやさんで、中に紅白の白玉入りで美味しくて大人気。たしかに幕間になったら早めに買いに行かないと売り切れてしまったりするんですよね。そういえば私も目の前で売り切れになったという経験がありました…。
3. 上手を選ぶか、下手を選ぶか問題
歌舞伎座は他の劇場に比べて舞台面がワイド画面のように横に長いのが特徴なので、前方の席であまり左右に偏った場所だと舞台全体は見渡しづらくなります。舞台向かって右側(上手-かみて-)に座るか、左側(下手-しもて-)に座るかも、好みがわかれるところのようで…
花道を使った演出は歌舞伎の特徴的な演出であり見せ場のひとつ。花道のすぐ近くで観たい!という花道重視の場合は下手寄りになりますね。
7番というのは花道のすぐ内側の席ですが、花道近くといえば、花道を挟んで逆、花道の外側にも席があります。花道での演技が真裏になってしまう席で、「花外(はなそと)」とか「ドブ席」なんて呼ばれちゃったりもするのですが、この席からしか見えない役者さんの表情などもあったりするのでマニア的には面白い席でもあります。
上手側を選んだ方もいました。
奥山さんは解説者活動のほかにピアノ講師もされています。音楽がご専門の奥山さんならではのコメントですね!
あと個人的にツボにはまった回答が…
確かに、演目によっても、座りたい席は変わるというのもありますね。歌舞伎だと、ほぼずっと上手にいる役とかも他の演劇よりもある気がします。
(『勧進帳』の富樫はほぼずっと上手。)
あとは、「推し俳優の、この役のこの瞬間のこの表情は、上手側からのほうがよく見える!」という演目によって変わる事情もありそうですね。
4. かぶりつきの最前列
これはいないかなと思ったら、いらっしゃいました、最前列がお好きな方!
最前列で歌舞伎を観る……一度体験してみたいことのひとつです。遠くの席にも届くような迫力を、間近で浴びてみたい。
コメントの最後の一文にはあまり触れないでおきたいと思います。
5. 2階席の最前列はVIP席
思いのほか、2階席にも票が集まりました。
2階の前方席、とくに最前列は観やすくて人気のお席ですね。
とくに最前列センターの席は皇室の方が観劇されるときにはここに座られることも多く、「天覧席」と呼ばれたりもします。VIP席です。
これはイヤホンガイド解説者ならではの回答ですね!舞台稽古に合わせてイヤホンガイドをテスト放送し、解説者はそれを自分で聞きながらチェックして修正を加え、初日までに解説を完成させます。
ちなみに佳山さんが特に思い入れがあるのは「2階席2列43番」とのこと。旦那様とはじめて一緒に歌舞伎を観たときに座った席だそうです!
観劇ファンの皆さんも、それぞれに「思い出の席」があったりするのでしょうか。
6. ぜいたく!桟敷席
さすがベテラン解説者の西形さんらしいコメントをありがとうございます。1階の桟敷席は、一等席よりもさらにワンランク上のお値段で、二人一組の個室のようになっていて、お茶のサービスがつきます。お弁当を注文すると、幕間に席まで届けてもらえる特別待遇。桟敷席での特別な贅沢も、一度は体験してみたいことのひとつですね。
桟敷といっても、1階ではなく2階!というコメントも。
2階の桟敷にはお茶サービスなどはついていませんが、特等席感がありますね。西側(下手側)だと花道が見づらくなるのでやはり東側が人気です。
7. リラックスして観る派の皆さん
なるほど、リラックスして観るという、これはまたツウな感じの楽しみ方。
濱口さん、この双眼鏡は家電量販店では「バードウォッチング用に…」とごまかして購入したそうです。…そんなに本格的な双眼鏡ということですね!?
2013年に新開場した現在の歌舞伎座は、建て替え前と客席内部の見た目などほとんど同じように作られていますが、座席の幅が広くなるなど、少しずつマイナーチェンジがされているんですよね。劇場に包み込まれる感覚というのは面白いです!
そのほかにこんなコメントも。
個人的には歌舞伎の圧をどーんと感じながら観たいタイプなので、このご意見とても新鮮でした。でも、「動く絵のように」…たしかに歌舞伎の古典演目では、舞台全体の様式美にはっとさせられることはよくあります。
8. 穴場?コスパの良い席。
たくさん票が集まった席といえば、こちら。1階席後方の17列目。
17列目の前に通路があり、そこが一等席と二等席の境目にあたるという、俗に言う(言う?)「コスパの良い席」です。
歌舞伎には、いわゆる「客席降り」をしてお客様を喜ばせる演出の演目も結構あります。そういう時に、17列のすぐ前の通路で立ち止まってひとくだり芝居のやりとりをすることも多いので、前方席ではなくても間近に俳優さんたちの演技を観ることができたりしますね。
また、1階後方席の良いところは、花道最後まで全部観えること。揚幕に入る瞬間まで演技をしている役者さんの表情が見える!
9. 客席もバラエティ豊かな3階席、一幕見席
3階席には、歌舞伎観劇が初めての方から、歌舞伎座に通い詰めるツウのお客さんまで、色々な人たちが集まっていて、非日常を感じる1階席とはまた一味違った雰囲気があります。当日券で一幕だけ観られる幕見席(3階席よりもさらに後方の席)だとさらに外国からの観光客もたくさんいらっしゃったりして、劇場という場所の多様性を感じて面白いなと思います。
座りなれた席が落ち着く、というのもありそうですね。居酒屋メニューの「いつものやつ」のような感じで、「いつものところ」というような…?
三浦さんも、学生時代に3階席や幕見席によく通っていたとのこと。たまたま隣り合わせた歌舞伎ツウのお客さんによく話しかけられたそうです。最近はそういうことは少なくなっているかもしれませんが…。「観劇体験」の面白さって、実は芝居の中身以外のところにもあったりするんですよね。
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以上、「好きな座席アンケート」解説者からの回答コメントまとめでした。
ランキングにしようかと思ったのですが、見事にばらばらでランキングになりませんでした!笑。私も観劇好きな人間のひとりですが、この話題になるたび、芝居の観方とか観劇の時に大事にしているポイントって十人十色で面白いな、と思います。
今回この記事を書くために解説者と久しぶりに歌舞伎の話をして、私個人としてもとても楽しかったです。読んでくださった皆様も、待ち遠しい観劇ライフを想像しながら楽しんで頂けたなら嬉しいです。また芝居好きな皆さんと、普通にこういう会話ができる日が、はやく来るといいな~と思いながら…
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歌舞伎・文楽のイヤホンガイド解説者が、古典芸能が好きな皆さんと共有したいことや芝居への愛を語ります。複数名の解説者が執筆を担当するので、色…