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文楽公演でデビューした解説者、辻󠄀陽史さんにインタビューしました!

今月、国立劇場の文楽公演で、新しい解説者がデビューしています。
第一部の『五条橋』で初解説に挑戦したのは、《令和記念 イヤホンガイド解説者オーディション》で、「令和チャレンジ賞」を受賞した辻󠄀陽史さんです。解説者としての第一歩を踏み出した辻󠄀さんにインタビューしました。

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↑解説者オーディションで令和チャレンジ賞を受賞した辻󠄀陽史さん


―まず、オーディションを受けることにした経緯を改めて教えてください。

課題演目が「京鹿子娘道成寺」であったことが、オーディションを受けようと思ったきっかけです。長唄三味線の稽古をしており、長唄の曲としても、歌舞伎演目としても、華やかで好きな曲だったので、「娘道成寺」ならやってみようかな、と思いました。加えて、このイヤホンガイドの解説という仕事に対するあこがれもありましたので、それもオーディションを受けるきっかけになったと思っています。
初めて歌舞伎を観たとき、イヤホンガイドを借り、そのイヤホンから聞こえてくる解説に、「こういう仕事もあるんだなぁ」と思いましたが、その時は中学生で、どうやってなるのかも、わからず。そこから時は流れて、今回、オーディションを経て、イヤホンガイドの解説をさせていただけるチャンスをいただきました。

―中学生の時にすでに興味を持ってくださっていたのですね!オーディションでは歌舞伎演目でしたが、初めての解説担当は文楽になりました。いかがでしたか?

初解説は「文楽」と聞いて、喜びとともに不安がありました。文楽ももちろん観てはいましたが、イヤホンガイドを流すタイミング(「きっかけ」)、歌舞伎との解説の仕方の違いを意識していませんでしたので、その部分を特に不安に思いました。
それから、文楽劇場の図書室で過去の映像記録を観ては、文楽劇場で文楽を観ながら(編集注:辻󠄀さんは関西在住) イヤホンガイドを聴いて、「きっかけ」や解説の仕方などを勉強しました。正直申し上げて、必死の初解説でした……。初日までの日程はだいたい聞いていたので、心づもりをしていたのですが、いざ調べだすと、自分がこれまで観ていたことと違う上演パターンに出会い、どのパターンがきてもいいように備えることを考えると、原稿提出までの日程が急にタイトに思えてきました。

―調べれば調べるほどさらに気になることが増えてくる、というのは他の解説者の方々もよくお話しされています。

「五条橋」では、上演形態、演出によって、かしら(注:人形の首から上の部分)が異なります。たとえば、牛若丸の「かしら」は、今回のように「若男(わかおとこ)」というのがよく使われますが、より牛若丸の年齢に合わせる ために「男中子役(おとこちゅうこやく)」が使われたこともあります。舞台稽古がはじまるまでわからない、不安がありました。

ほかに苦労したところ は、立ち回りの解説です。はじめに作った原稿では、立ち回りの部分を、語りの内容に合わせすぎたため、 動きをそのまま解説しているだけのように なってしまいました。制作ご担当の方との相談の中で、牛若丸、武蔵坊弁慶の、五条橋にやってくるまでの背景を立ち廻り中の解説に入れるようにしました。ご観劇のお客様には、大柄の弁慶が、小柄な牛若丸に降参する理由がわかっていただけたり、劇中での立ち回りの効果を感じたりしていただければ幸いです。

―プラスアルファの情報があると、ストーリーの納得度合が増しますね。そのほか、何か工夫されたところなどはありますか?

文楽は人間ではなく人形が芝居をしていますので、動きが少々捉えづらいところがあります。
たとえば、弁慶のかしら「大団七(おおだんひち・おおだんしち)」は、眉、目がうごく仕掛けがあります。見得(感情の高まりなどをみせるストップモーション効果を生む演出 )となり、眉、目が動いたときに、ちょうどお客様がオペラグラスで見ていただけるように解説でご案内いたしました。これは、イヤホンガイドではよくご案内している内容ですが、どのタイミングで人形についてご案内するか、芝居の進行を邪魔しないように、ということに神経を使いました。

―ひとつひとつ、緻密に考えながら解説を作成されたのだなということが伝わってきました。

「五条橋」は今回の公演のように、舞踊劇、文楽でいう「景事(けいごと)」として上演されることが多い作品ですが、もともとは『鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)』という五段構成のお芝居の一部です。単独で見ていただいても、筋がわかりますが、もとの『鬼一法眼三略巻』のストーリーの中での「五条橋」という視点でみていただければ、より結末の部分の納得感が得られるのではないかと思い、そのような観点で、開演前の解説ならびに上演中での解説を作っています。

―なるほど、わかりやすいご説明!
今後、解説者として活動するうえでの意気込みを最後にお願いします。

歌舞伎・文楽の魅力をお客様にお伝えできる解説を作るように、また、上方の人間なので、上方の芸というものの魅力もお伝えできる解説者になれるように、精進してまいります。

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↑初解説を録音した関西支社の録音ブースにて。


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以上、今月イヤホンガイド解説者としてデビューした辻󠄀陽史さんへのインタビューでした。いつか、上方歌舞伎の演目を、生粋の上方育ちの辻󠄀さんのご案内で観るのも楽しみです!(編集A)


辻󠄀さんの開演前解説、劇場で放送しているものと同じものをこちらでも聴けます。↓↓↓(※現在は公開終了しています)


☆辻󠄀さんが解説を担当している国立劇場の文楽公演情報はこちら↓↓↓


※オーディション受賞者へのインタビュー、バックナンバー記事もどうぞ。

石塚みず絵さんの記事はこちら↓

鈴木桂一郎さんの記事はこちら↓


★歌舞伎・文楽ファンの皆さんにお勧め!解説者による連載「イヤホンガイド解説者のひろば」↓