見出し画像

12月歌舞伎座の演目を、歌舞伎ファンがご紹介します。

皆様こんにちは。noteマガジン「イヤホンガイド解説者のひろば」編集担当Aです。

気づけばもう11月、あと1か月半くらいで今年も終わってしまいますね。

3月からの長い休演期間を経て8月に公演再開した歌舞伎座。
それから9月、10月、11月と、歌舞伎座の明かりが途絶えることはなく、歌舞伎が上演されているのは嬉しい限りです。

ただ、感染症対策として、通常の歌舞伎興行とは違った形態での上演が続いています。通常と大きく違うことといえば、四部制で各部(1演目)ごとに客席入れ替え制なこと。

われわれ歌舞伎ファンは、幕間(休憩時間)には観劇弁当を席でほおばり、次の幕間には甘いもの(たい焼きとか)を食べたり舞台写真を買いに行ったり、長い時間を歌舞伎座で過ごす時間ひっくるめて「観劇の一日」と思っているところがありますが、忙しい現代人にとって、馴染みのない歌舞伎観劇に割く時間が4時間超え…というのはなかなかハードルが高い、、、ですよね。

そう考えると、1演目の入れ替え制って、歌舞伎観劇に慣れていらっしゃらない方にとって実は足を運びやすい環境なのでは…?しかも、3階席のさらに上から一幕だけ観られる「一幕見席」とは違って、いまは一演目だけでも一等席に座ることができる!一等席で観る歌舞伎をいつもよりも少し気軽に体験できるチャンスです。これは今のうちに歌舞伎観劇をお勧めしないわけにはいかない。

…というわけで、今まで歌舞伎に馴染みがなかった方も、2020年の締め括りに歌舞伎を観てみませんか?

(8月はドラマ「半沢直樹」が盛り上がっていたので、歌舞伎観たことないけど興味出てきたかもという方に向けてこんな記事を書きました。)


今回も、歌舞伎は一度観てみたいけど演目名と出演者だけではどれを観たら良いのかわからないんだよね、という方に届きますように… 独断と偏見交じりで、いち歌舞伎ファンの視点からご紹介していきたいと思います。


■歌舞伎座の12月公演は、こんな演目ラインアップ。

12月の歌舞伎座公演も引き続き四部制、各部ごとに客席入れ替え制です。

12月歌舞伎座チラシ


☆あの二人が色んなキャラで踊ります!

まず第一部『弥生の花浅草祭』。こちらは、踊りの演目です。
踊り手はたった二人。それぞれが4つのキャラクターになって踊る、変化に富んだ面白い舞踊です。(私は好き!)

今回これを踊るのは…いまや歌舞伎のほかにテレビドラマや映画でも引っ張りだこの片岡愛之助さん。そして、こちらもドラマやミュージカル、バラエティ番組と、色んなジャンルで活躍中の尾上松也さん。

二人が扮する登場人物名を見ると、二番目に「善玉」「悪玉」とありますが、もちろんコレステロールのことではありません(これ定番の説明です…)。江戸時代、人間の心には「善玉」「悪玉」がいるのだという話が流行していて、そこから来ているらしいです。

「善」と「悪」という文字のお面をかぶって踊るくだりは、最初に観た時は相当なインパクトありました。文字のお面!?ナニコレ!?って思った。
(※舞踊『三社祭』というタイトルで、ここだけ抜き出して上演されることも多い人気舞踊です。)

ぴょんぴょん跳ねたり、ふらふら揺れる面白い振りがあったり…日本舞踊の一般的イメージとはちょっと違うかも?な、軽快な踊りが見ものです。歌舞伎俳優の身体表現力のすごさを堪能できます。

この善悪のくだり以外にも、人気俳優の愛之助さんと松也さんが色んな種類の踊りを見せてくれます。最後には、歌舞伎といえばコレ、お馴染みの獅子の姿で豪快な踊りも!歌舞伎ショー的な楽しさがあります。

踊りの音楽は、歌詞の意味がわかるとよりいっそう面白く観られるのですが、聞き慣れない古典の歌詞を聞きとるのはなかなか大変。そこで!強い味方となるのが踊りに合わせてリアルタイムで解説するイヤホンガイドです! 

・・・なんだか急に直球の宣伝っぽくなってしまいましたが。でも、「踊りにこそイヤホンガイド!」これはイヤホンガイドを提供している立場としてはもちろんのこと、いち歌舞伎ファンとしても実感していることだったりします。


☆二年前に作られた人気新作歌舞伎を再び!

第二部は『心中月夜星野屋』。こちらは二年前、2018年8月に作られた新作歌舞伎です。「星野屋」という落語のお話が元になっていて、脚本は小佐田定雄さん。

小佐田さん脚本で落語をもとにした歌舞伎は、これに先駆けて2016年8月に『廓噺山名屋浦里』という作品が歌舞伎座で上演されています。こちらは、NHKの某散歩番組でタモリさんが吉原(江戸の遊郭があった土地)を訪れた際に聞いた話を、あの笑福亭鶴瓶さんが落語にしたという、新作落語「山名屋浦里」が原案ということでも話題になりました。

その『廓噺山名屋浦里』がとても面白い新作歌舞伎だったのですが、その二年後の2018年、また小佐田さんの脚本で落語をもとにした新作が上演されることに!というわけでこの『心中月夜星野屋』も大いに期待して観たわけですが・・・ 期待以上に面白かったのです!

主演コンビは二年前の初演から引き続き中村七之助さんと市川中車さん(香川照之さんです)。このふたりのキャラクターも本当にぴったりで、物語もわかりやすく、それでいて歌舞伎俳優がやるからこそ面白い!という演出になっています。「歌舞伎はじめ」にはもってこいの演目です。


☆かなり頻繁に上演される名作中の名作!同時期に関西でも上演あり。

第三部は『傾城反魂香』。これは古典歌舞伎の名作。
よく上演される歌舞伎演目トップテンに入るんじゃないか?というくらい歌舞伎ファンにはお馴染みの演目ですが、それだけ良く上演されるということは、「良い芝居である」ということの証でもあります。

主人公は言葉がうまくしゃべれないというハンディキャップを抱えた絵描き修行中の又平さん。なかなか修行の芽が伸びず、弟弟子にも先を越されてしまい、師匠に認められずに自暴自棄になってしまいます。そんな又平を支える妻のおとくの献身的な姿が涙を誘い… 登場人物の心の動きが繊細に描かれる、良いお芝居なんです。時代は違えど、変わらない人間の情というのを感じます。

このお芝居、ラストにはある奇跡が起こるのですが、この『傾城反魂香』の設定には結構ファンタジーっぽい展開が散りばめられています。作者は有名な近松門左衛門。古典の名作を観た!と満足できること間違いなし。

主人公又平を演じるのは、中村勘九郎さん。妻のおとくは市川猿之助さん。
おふたりは2008年の浅草歌舞伎公演(若手俳優の登竜門のような公演)でも又平とおとくを演じて好評を博しました。それ以来の名コンビ復活です。あれから10年以上の月日が経ち、いまや飛ぶ鳥落とす勢いの働き盛り世代のふたり。期待大です。

12月、実は京都の南座でもこの『傾城反魂香』が別キャストで上演されます。関西版の演出だと、ラストの演出がちょっと違います。同じ作品でも、先人たちの工夫が枝分かれして伝わってるという、ここが歌舞伎の沼の深いところなんですが、その話はマニアックすぎるのでまた別の機会に…。


☆日本神話の世界感と玉三郎ワールドの融合へようこそ。

第四部は『日本振袖始』。こちらも舞踊の演目ですが、一部の『弥生の花浅草祭』よりもストーリー仕立てになっている舞踊劇といった演目です。

お話は日本神話の世界。「スサノオノミコト」ってご存じでしょうか?日本神話に出てくる神様のおひとりです。そのスサノオが、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治したという伝説にもとづく物語展開になります。
「八岐大蛇に生贄として若いおなごを差し出さんといかんのじゃー」みたいなところから始まる、日本昔話みたいな世界感。

ただし、日本神話が歌舞伎の舞踊仕立てになると、こうも妖しく美しい魅力と迫力を放つのか!というところがポイントです。

今回、妖しい八岐大蛇を演じるのは、女方の第一人者・坂東玉三郎さんです。玉三郎さんの完成された美の世界と、日本神話の世界の融合は、まさに世界に誇れる日本の文化芸術。
歌舞伎の特徴といえば、「女方」。その究極の形、坂東玉三郎の芸は一度観ておいたほうが良いです。そういう意味では、ビギナーの方や外国の方におすすめを聞かれた時には「まずは玉三郎さんを観て」と高確率でおすすめしている気がします。

ちなみに、今回の『日本振袖始』は、「ただただ美しい!」という芸とも違います。なんといっても八岐大蛇ですから。歌舞伎ならではのダイナミックな迫力も見逃せません!


(※追記:12月1日~7日の期間は配役変更が発表されています。玉三郎さんのご出演は9日以降です。↓)


・・・
以上、気づいたら、全部の演目を「面白いですよ」とお勧めしている記事になってしまったのですが… 少しでも演目選びの糸口になっていたら幸いです!

■12月歌舞伎座の情報&チケットご購入方法などはこちらから
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/695/


◎12月歌舞伎座の演目について、イヤホンガイド解説者がもっとちゃんと詳しく演目についてお話しする生配信オンラインイベントがあります!どうぞお気軽にご参加ください。


■12月は、歌舞伎座のほかに、東京は国立劇場でも歌舞伎公演があります。

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2020/21210.html?lan=j


■そして、京都の南座でも歌舞伎公演があります。(関西の歌舞伎ファンの皆様お待たせしました!)

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/691/


◎12月歌舞伎公演、各劇場とも、同時解説イヤホンガイドのお貸し出しをします。舞台の進行に合わせてわかりやすくリアルタイムでご案内する、歌舞伎観劇の強い味方!ご観劇のお供にぜひご利用ください。

【公式】歌舞伎座受信器


◎noteマガジン「イヤホンガイド解説者のひろば」更新中。解説者が執筆するマニアックな演目の解説や、歌舞伎にまつわるエッセイを掲載しています。(初月登録無料!)