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#おかえり歌舞伎座【解説者編】

5か月ぶりに再開した歌舞伎座の8月公演は先日千穐楽を迎えました。

8月公演中に「#おかえり歌舞伎座」というハッシュタグを使ってお客様からの感想を募集しましましたが、こちらでは8月客席から観劇した解説者たちのコメントをご紹介します。(編集A)

※この記事は、「イヤホンガイド解説者のひろば」マガジンの記事として公開していますが、マガジンを定期購読していない方も最後まで無料で読みいただけます。

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第一部『連獅子』

愛之助の親獅子と壱太郎の仔獅子。近年は「十七代目勘三郎・五代目勘九郎」「十二代目團十郎・七代目新之助」「四代目段四郎・二代目亀治郎」「八代目芝翫・子供3人」「幸四郎・染五郎(2代続けて)」といった本当の親子の『連獅子』を頻繁に観てきたので、そうでない二人組はかえって新鮮なカンジ。まあ、中村屋親子がやる前までは、それが当たり前だったというけれど・・・。
後見が差し金の蝶を役者の肩に乗せた際「コラ! ソーシャルディスタンスを取らないとダメじゃないか!」と腹立たしく思った自分が情けなかった。
(イヤホンガイド解説者:高木秀樹)

もともと4月は改装のため休演予定だった歌舞伎座。1か月だけの休業予定が思わぬ長さとなってしまいましたが、改装工事は予定通りおこなわれて檜舞台も新しくなりました。新しい舞台を踏み鳴らして踊る獅子の姿が印象的な歌舞伎座再開となりました。
いやしかし、ソーシャルディスタンスを気にしてしまうようになったというのも、とてもわかります…


第二部『棒しばり』

8月21日、第二部「棒しばり」を拝見。行く前は、芝居見物とも思えぬ規制に気が重かったのですが、動画配信されていたイヤホンガイド園田先生の解説を道中のお供にテンションをあげました。緞帳が開く前の勘九郎丈のご挨拶に鼻の奥がツンとなり、幕が開けば、軽妙な狂言に頬がゆるみます。勘九郎丈、巳之助丈の共演を見るのは、2回目。長らくそれぞれのお父上の名演と比べられてきましたが、もはや堂々たる次郎冠者に太郎冠者でした。大向うの代わりにお客様の心がこもった拍手が場内を包み、はじめの心配はどこへやら、胸アツで劇場をあとにしました。
(イヤホンガイド解説者:齋藤智子)

感染防止策として客席では大向うも禁止され、客席内での話し声も控えるようにとアナウンスがあるなか、『棒しばり』のような普段なら笑い声が客席中に響く演目はどうなるのだろう?と思っていましたが、上演中はいつもと変わらず楽しい空気で満たされました!


第三部『吉野山』

満開の桜に劣らぬ静御前の美しさと、骨太な竹本の旋律に乗せる、忠信の勇壮な戦物語を堪能。そして澤瀉屋ならではの、蝶と戯れるうち狐の本性があらわれる幻想的な幕切れに、しばし浮世の憂さを忘れる心地でした。イヤホンガイド解説者:三浦広平)
八月四日、久しぶりの歌舞伎座は、ひと席おきに座ったせいか、いつもよりずっと大きく、広く感じられました。それでも、花道から出てきた七之助扮する静御前の美しさを見た瞬間、また幕が開いたことがただただ嬉しく、涙がこぼれました。
猿之助の狐忠信は凛々しく、最後の引っ込みは普段のように花四天に笠を投げるのではなく、衣裳もぶっ返っての狐六法。ああ、なんてカッコいいんだろう、素敵なんだろうとうっとりする幕切れでした。久しぶりに、そしてちょっと勇気を持って歌舞伎座に来た私たちへの贈り物だったのかもしれません。
今回の「吉野山」では、前半静が珍しく「萬歳」のくだりを踊りました。「やしょめ やしょめ 京の町のやしょめ 売ったるものは何々〜」という、明るい旋律のこの踊りは、もともと蓮如上人が作った子守唄とも伝えられ、「やしょめ」は「優女」と書くと言われます。京の町の、可愛い物売り娘の様子なのでしょう。白拍子出身の静が、愛らしくたおやかに、私たちの気持ちを明るく盛り上げてくれました。実はこのくだり、歌舞伎座が閉められる直前の二月公演夜の部で、梅川忠兵衛を慰めるため、松緑扮する萬歳も踊ったのでした。こちらは、ちょっと哀愁漂う風情が素敵でした。
あれから半年、私たちの生活は大きく変わり、なんと長い間この瞬間を待たねばならなかったでしょうか。また生で歌舞伎を見ることができたこの日を、一生忘れることはないでしょう…だって、私の○歳の誕生日だったのですから!これ以上ない誕生日の贈り物をくださった役者衆、スタッフのみなさまに、心から御礼を申し上げます。
イヤホンガイド解説者:中川美奈子)
花道から中村七之助さんの静御前が登場すると、静かな客席にじわが来るのがわかり、歌舞伎ファンは舞台を待っていたのだと確信しました。
普段はカットされがちな「万歳」の件りが上演されたのも良かったです。
紗の黒マスク、地方さんだけでなくツケ打ちさんも着用とは!まさにWithコロナの舞台仕様。市川猿之助さんの忠信の引っ込みは澤瀉屋らしくぶっかえりで華やかに盛り上がり、歌舞伎再開の嬉しさを実感しました。
イヤホンガイド解説者:濱口久仁子)

あまり上演されない珍しいくだりも踊られて、じっくりたっぷり濃厚な1時間を堪能できる『吉野山』でした。
歌舞伎仕様の黒いマスクも「格好いい」と、歌舞伎座再開のニュースと共に注目されていたようです。


第四部『与話情浮名横櫛』

〈すごいぞ!歌舞伎の「定式」(「常識」にあらず)〉
公演の現状を確かめたくて初日に第四部を観ました。場内アナウンスで「開幕5分前でございます」と聞いた途端、不覚にも安堵の涙が…。場面転換なしの「一杯道具」の舞台ですが違和感ありません。時代物なら背景は金襖、世話物ならば上手小部屋の正面暖簾口、舞踊なら松羽目の背景でOK。江戸時代から巡業で培われた最小限の仕込みで最大限に効果を上げる歌舞伎の「定式」がコロナ禍の現代で真骨頂を発揮します。凄い!イヤホンガイド解説者:鈴木多美)
あえて芝居のおかしみに取り入れた、昨今のソーシャルディスタンス。藤八をからかうお富の「距離が…」の台詞に、客席からクスクスとマスク越しの笑い声。歌舞伎は逞しい!イヤホンガイド解説者:三浦広平)
〇上演時間1時間の制限のため「木更津」の場がない短縮バージョン。幸四郎が見せる、前半「若旦那の与三郎」と後半「切られ与三郎」の対比の趣向を楽しめないのは残念。残念と言えば「源氏店」の、いつもの幕開き。黒板塀に見越しの松の源氏店に湯上りのお富が戻って来るところ、洗い髪に横櫛が挿してあり、それが本名題「浮名横櫛」の元になっている。またお富の役名も以前は「横櫛お富」と明記されていた。そのように、たいへん印象的なお富の出の場面がなかったのも、これまた残念。
〇 しかし児太郎はお富が初役ながら、母親じゃなくて父親の福助を髣髴とさせる立派な芝居。蝙蝠安(彌十郎)の難癖に腹を立て「わたしには立派な亭主がある」と啖呵を切るところも、初役とは思えないくらいの貫録を見せていた。児太郎と幸四郎はこれからもお富・与三郎のいいコンビになるだろう。
〇 幕切れ近く、二人が「もう離れない」と、いつもなら肩を寄せ合うところ、手を触れた途端、二人ともパッと手を引っ込める。コロナ時代にはいけない動作だから・・・。ここで客席も沸く。次の瞬間、お富か与三郎だったかは忘れたが、手ぬぐいを投げ、それを掴む形で二人は寄り添う・・・。幕切れ近くで、物語もハッピーエンドなので、こうした微笑ましい「コロナ演出」も許されるのだろう。来たお客さんも、ここだけはずっと覚えていると思うし「有り」だと思った。 イヤホンガイド解説者:高木秀樹)

第四部「源氏店」では、コロナ禍ならではの演出が話題となりました。社会的距離を保つべきところを逆手にとった演出、秀逸でしたね。時代に合わせた工夫をどんどん取り入れて、それでも軸がぶれない!歌舞伎の底力を感じます。

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さいごに、全演目を一日にすべて観劇したというこの方からのご感想です。

一部から四部まで通しで拝見。一番の驚きは怖いほどの静けさ。一部「連獅子」で鼓の調べ緒を締めるキリキリという小さな音が場内に響き渡りました。耳が少し遠いらしい高齢者が知人と一つ置きの座席から声高に会話をしていましたが、周囲の厳しい視線に晒されすぐに静かに。舞台では中堅・若手役者を中心にエネルギーが溢れます。連獅子は端正、棒しばりは陽気、吉野山は静と動の美、源氏店はニューノーマル。歌舞伎再開に思わず涙しました。イヤホンガイド解説者:吉崎典子)

吉崎さんいわく、すべての部を観たい!と思ったら一日通して観劇するのが一番スケジュールを組みやすかったとのことでした。とはいえ長丁場になりますが、歌舞伎ファンの皆様の中にも、一日ですべて観劇したという方も案外いらっしゃるのかも…?

まだコロナ禍のさなかということもあり、歌舞伎ファンの皆さんのなかにも、8月は実際に劇場には足を運べなかったという方もいらっしゃると思います。安心して通常の興行形態で上演できる日が早く来ることを願うばかりですが、今できることのひとつとして、歌舞伎の舞台映像の配信サービスが新しく始まりました。8月歌舞伎座公演の舞台映像配信もされています。

様々なご事情で観られなかった皆様、もう一度観たくなった皆様、ぜひこちらの「歌舞伎オンデマンド」チェックしてみてください。(※8月公演の舞台映像は9/8まで配信中)


イヤホンガイド解説者による「観劇ポイント講座」動画も引き続き配信しています。映像配信の予習にもお役立てください。

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