解説者オーディション優秀賞の鈴木桂一郎さん、初解説を取材しました。
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解説者オーディション優秀賞の鈴木桂一郎さん、初解説を取材しました。

先月に引き続き、今月もイヤホンガイド解説者に新しいお仲間が加わりました。今月、国立劇場の『三人吉三巴白浪』の序幕・大川端庚申塚の場の解説を担当しているのは、《令和記念イヤホンガイド解説者オーディション》で優秀賞を受賞した鈴木桂一郎さん

初めての解説担当はどうだったか、ご本人にインタビューしました。

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―まずは鈴木さんとイヤホンガイドの出会いについてお聞かせください。

祖母と父が歌舞伎ファンで、特に父には、私が若い時から、「歌舞伎を今から見ていると、老後の楽しみが増えるぞ」と言われ、昭和の終わりから今に至るまで、ずっと歌舞伎を見てきました。
歌舞伎は江戸時代の現代劇ですから、江戸の庶民は色々と勉強して歌舞伎を見に行ったのではなく、好きな役者が出ているからとか、評判がいいからなどとふらっと劇場に入ってお芝居を楽しんだと思っていました。そこで、私は当初、事前に勉強せず、予備知識なく、歌舞伎を見るようにしていました。でも、高いお金を払って歌舞伎座に行っても、途中眠くなって寝てしまうことが度々起こります。どうしてかというと、時代物などは役者のセリフが分からない、義太夫も何を語っているか聞き取れない、三味線は時には扇情的ですが、眠気も誘います。その結果、昼寝タイムになってしまったのでした。
ところが、イヤホンガイドの存在に気が付き、イヤホンガイドを借りるようになると、歌舞伎座で寝なくなりました。最大の理由は、耳元で歌舞伎の世界に引っ張って行ってくれたからです。


―鈴木さんが歌舞伎好きになった陰にはイヤホンガイドの存在があったということでしょうか。

イヤホンガイドでは、幕が開く前に事前に見所を紹介し、今舞台では何が行われているのか劇に沿って解説してくれます。分からないセリフは現代語で説明してくれるし、ここが見どころだと先回りして告げてくれるので、見逃すことはありません。義太夫がどんなことを語っているか、優しい言葉に置き換え解説してくれます。つまりイヤホンガイドに助けられながら、予備知識は一切なくても、寝ることなく、最後まで芝居を楽しむことができるようになったのです。イヤホンガイドは、耳で聞く筋書き、私にとっては歌舞伎の案内人となりました。


―ずっとイヤホンガイドのリスナーでいらしたとのことですが、どのようなお気持ちから解説者を目指すようになったのでしょうか?

30年以上、イヤホンガイドを聞いてきて、すでに亡くなった解説者の方もいます。新しい解説者も増えています。私も、歌舞伎をいち歌舞伎ファンとして長年歌舞伎を観てきましたが、そのうち私の心の中には、何時かはイヤホンガイドの解説者になって歌舞伎初心者の手助けをしたい、歌舞伎ファンを増やしたいという気持ちが出てきました。イヤホンガイドのオーディションがあることを知り、チャレンジしたところ、合格したという訳です。
実は、前回5年前のオーディションにも挑戦し、その時は落ちてしまったのですが、それから自分で歌舞伎評論を書くことにしました。評論を書くにあたっては、先人の著作物に目を通すようになりました。こうした経験を経て、単なる思い込みではない、自分なりの歌舞伎の見方が生れてきたように思います。


―今回、オーディション再挑戦で、みごと優秀賞に選ばれました。今月、初めて解説を担当されましたが、いかがでしたか?

新しい経験で、わくわくしました。依頼を受けた時に思ったのは、この芝居『三人吉三巴白浪』は七五調のセリフ劇なので解説を入れる場所があまりないことと、有名なセリフ、名調子と言うけど、その実、名セリフの中身が何を表現しているのか今となってはわかりづらいということ。そこで、解説ではその「名セリフ」と呼ばれるところに力点を置くことにしました。

工夫したのは、前説(開演前解説)の時間に、重要な情報は全て前もって伝えてしまうようにしたことです。舞台が始まってからは、三人の主人公、お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三のキャラクターがわかりやすいようにキャッチフレーズを作り、登場の際に改めて強調して伝えるようにしました。100両と庚申丸が色々な人の手に渡りながら芝居が進み、3人の関係性が表れるあたりは、観客を引っ張っていけるよう特に強調しました。

また、七五調のせりふ劇を壊さない様に、隙間を探して情報を入れるようにしました。耳慣れない、分からない言葉は、すぐに被せて理解してもらうように努めました。制作に当たっては、ご一緒した制作担当さんから色々とアドバイスをいただき、こまごま言葉を解説するだけではなく、セリフに沿って短い文章にして情報を伝えることにもチャレンジしました。リスナーの理解を促進できたのではないか思っています。


―色々と工夫されて作りあげられたのですね。解説者の業務については想像していた通りでしたか?

想像と違ったことはありませんが、解説の仕事は解説者一人が自分の思いで行うのではなく、制作陣と共に作るものだということを再認識しました。

例えば、打ち合わせの中で、目で読む原稿と違って耳で聞く情報の場合には、子供から歌舞伎初心者まで理解してもらうため、難しい言葉は避けて優しい言葉で表現するようアドバイスを受けました。情報を耳で聞いて、そこで理解が止まってしまっては、イヤホンガイド解説の意味がなくなるからです。その通りだと思いました。

前説では、伝える情報の順番を意識させられました。どうしても自分が考える重要と思う順番に並べてしまいがちになりますが、イヤホンガイドの利用者、聞く側が欲しい情報の順番を意識して並べることが大事だと思いました。情報が錯綜しないよう、繰り返しにならないように心がけました。特に、この芝居の根幹にある「庚申信仰」については、制作陣と相談しながらなるべく分かりやすい説明を心がけました。


―今回、とくにご苦労された点はありましたか?

「月も朧に白魚の篝も霞む春の空・・・・」の名セリフは、名セリフといいながら、何を伝えているのか分からない部分もあります。前説では特に強調して、セリフにある言葉の説明をして理解を助けました。更に、名セリフを現代語に訳して伝えるというチャレンジをしてみました。新たな試みが、成功したかどうか、御意見を伺いたいです。

鈴木さんが苦心したという開演前解説、劇場で放送しているものと同じものをこちらでも聴けます。↓↓↓(※公開は12月末で終了しました)


―今回の解説で、ご自身でPRしたいところはありますか?

私は、NHKのアナウンサーを42年経験してきましたので、読んで聞かせる、語って伝える話術でしょうかね。
伝える必要がある情報を、優しい言葉でコンパクトにまとめ、芝居に沿って的確に伝える事を意識しました。お芝居を楽しみに見に来ている観客の耳を邪魔をしない、うるさくない声の使い方に気を配りました。あまり感情移入はせず、フラットに語る事を考えました。と言いながら、ここはと言うところは、実況風に強調したり、語りのスピードに変化を付けました。

舞台は、総合芸術ですから、役者を始め、義太夫、鳴り物、大道具、小道具、照明など舞台に関連する全てのところで、プロの方達が、仕事をされています。そこに連なるイヤホンガイドも、彼らの仕事の邪魔をすることなく、情報を伝える、語り手のプロの技を披露しなくてはならないと思います。


―語りのプロとしての経験を活かしながらのご活躍、期待しています。改めて、これから解説者として活動するうえでの抱負はありますか?

今回、解説者としてデビューした訳ですが、基本的には、私はずっと歌舞伎ファンでいたいと思っています。ただ、長年歌舞伎を見て来るとどうしても自分の主観が前面に出て、その思いを語ってしまいがちになります。今回は、なるべく自分の思いを伝えることは避けて、何人もの歌舞伎の世界の先達の本を読み、この芝居の本質はどこにあるのかを探りました。自分の思いだけで芝居を観ず、いったんフラットに戻してから芝居を観て、解説文章を書いていこうと思います。そして、解説のどこかに、珠玉の一行の主観を交えたいと思っています。

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↑収録ブースで初解説を録音する鈴木さん


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以上、今月イヤホンガイド解説者としてデビューした鈴木桂一郎さんへのインタビューでした。新しい解説者の、新しい視点での解説をぜひ劇場でお聴きください。


☆鈴木さんが解説を担当している国立劇場の歌舞伎公演情報はこちら↓↓↓


★先月解説者デビューしたオーディション受賞者、石塚みず絵さんの記事はこちら↓



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