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【初心者さん向け!演目ざっくり紹介】5月歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」公演

皆様こんにちは。
皆さまの歌舞伎観劇の第一歩をサポートする「歌舞伎はじめてガイド」

歌舞伎を観てみたいけれど、どこから情報を得れば良いのかわからない…歌舞伎の演目名がずらっと並んでいても、どんな内容なのかがわからなくて困る!・・・そんな初心者さん向けの「演目ざっくり紹介」、こちらは2024年5月歌舞伎座編です。


5月歌舞伎座チラシ

 5月は「團菊祭」という名前がついた公演です。明治時代に活躍した九代目市川團十郎と、五代目尾上菊五郎という名優ふたりを称える興行という意味で、市川團十郎家、尾上菊五郎家ゆかりの俳優たちが揃って出演します。もちろん、当代の團十郎さん(十三代目)、菊五郎さん(七代目)もご出演です。
ではさっそく、5月の演目についてご紹介していきたいと思います。


《昼の部の演目》『鴛鴦襖恋睦』『毛抜』『極付幡随長兵衛』

まずは『鴛鴦襖恋睦』。

こちらは、舞踊の作品です。「おしどり」と副題がついていますが、尾上松也さんと尾上右近さんが、男女の鴛鴦の精として踊ります。
さらにチラシを見ると二人の配役にはそれぞれ、河津三郎と遊女喜瀬川とも書いてあります。これがこの作品のキーポイントになります。
そして、もう一人の登場人物で中村萬太郎さん演じる股野五郎という人物。この股野という人物と、河津三郎が対立関係になっていて、そこに「おしどり」が絡んでくる・・・というストーリー性のある舞踊です。
古風な歌舞伎らしい舞踊劇で、ファンタジーのような要素もあるので、初心者の方でも楽しく見られるのではと思います。(ただ、舞踊なのでセリフではなく音楽の歌詞で物語が進むため、イヤホンガイドありで観劇したほうが内容はわかりやすく観られるのでおすすめです)

 

そのあとが、『毛抜』。

こちらは、お芝居。「ザ・歌舞伎」というような見得のポーズもたくさん出てきますし、主人公の出で立ちも、歌舞伎でしか見ないようなとても派手な色合いと柄の衣裳を着て出てきます。動きもしゃべり方も見た目も、おおらかな歌舞伎らしさを感じる一幕です。
今回は、「四世市川左團次一年祭追善」と書いてあるように、去年の4月に惜しくも亡くなられた市川左團次さんの追善の演目でもあります。主人公の粂寺弾正を演じるのは、左團次さんのご子息、市川男女蔵さんです。次の世代に芸が継承されていく、歌舞伎ならではの感慨深さがあります。

それと今回は「追善」ということで、普通ではないことがひとつ!市川團十郎さんが後見役で出演するんです。後見というのは、俳優を舞台上で手助けするいわば「黒衣(くろこ)」の役割。『毛抜』のような古風な演目では、黒ずくめの姿ではなく、顔を出した正装スタイルで登場します(なので團十郎さんのお顔は見えます)が、もちろんセリフなどは一切ありません。通常は主人公をつとめる團十郎さんが、後見役で出るというのにも、團十郎さんや共演者たちの左團次さんへの想いの特別さも感じます。

 

☆歌舞伎好き社員・藤之森のトークでも、左團次さんや『毛抜』についてお話ししています。こちらもぜひチェックしてみてください。

 

そして、昼の最後が『極付幡随長兵衛』。

こちらは、市川團十郎さんが主人公の番隨長兵衛を演じるお芝居です。
番隨長兵衛といえば、歌舞伎だけでなく講談などにも出てくる江戸時代の人気キャラのひとり。実在の人物がモデルになっていて、「男も惚れる男の中の男」などと評されたりもします。そういう格好良い役です。
長兵衛は「町奴」とよばれる町人のグループのボスで、子分たちからも慕われています。この「町奴」と対立するのが「旗本奴」という武士のグループ。今回は、水野十郎左衛門という旗本奴グループのボスを尾上菊之助さんが演じます。でもこの水野十郎左衛門という役も、敵役だからといって格好悪く描かれているわけでは決してありません。男同士の意地をかけた駆け引きが見ものです。
長兵衛には小さな息子もいて、この息子や妻との家族ドラマには泣かされます。決して男同士の対立だけではないのもこの芝居の魅力で、人気の理由かと思います。

 

《夜の部の演目》『伽羅先代萩』『四千両小判梅葉』

夜の部はまず『伽羅先代萩』というお芝居から「御殿・床下」という場面。

よく上演される有名演目のうちのひとつです。
テーマは、歌舞伎演目にはよくある「お家騒動」。大きな家の跡取り問題で、対立する勢力があったり、お家乗っ取りを企む悪い家臣が出てきたりするのが定番です。だいたいは歴史上の事件をもとに、かなり脚色が加えられています。
この作品には、忠義を尽くす政岡という乳母と、お家のっとりを計画する悪人側の八汐という、2人の対照的なキャラの女性が出てきます。悪人側の八汐の役は、普段は男性の役を演じている俳優が配役されることが多く、今回もそうです。かなり迫力ある女性です。

その八汐の兄が、お家乗っ取り計画の首謀者・仁木弾正で、この役を市川團十郎さんが演じます。今回上演される場面では、仁木弾正の出てくる場面はほんの短い時間ですが、その短い時間でも気迫や大物感を感じる演出や演技になっています!主役級の俳優さんでないと務まらない役なのにこんなに出番が短い・・・でもそこでかなりのインパクトを残す。こういうところも歌舞伎のおもしろさです。


そして、『四千両小判梅葉』。

『伽羅先代萩』は、江戸時代の人たちにとっての「時代劇」というような、浄瑠璃の語りで物語が進んでいくタイプのものですが、こちらの『四千両小判梅葉』は、江戸時代の人たちにとっては「現代ドラマ」のようなもの。江戸の一般庶民たちの普段の暮らしがそのまま舞台上で展開するタイプのお芝居です。
でも、普段の暮らしぶりが見える芝居・・・といっても、この作品で印象的なのは、「牢屋」の場面。普段から牢屋に馴染みがあった人はそうそういないと思われますが・・・。なかなか陰湿な場面だったりはしますが、江戸時代の風俗を芝居から感じ取れるという意味でも貴重でおもしろい作品になっています。
牢屋の場面があるということは・・・そう、この芝居では、悪事を働く人間が主人公です。作者の河竹黙阿弥は、盗賊たちを主人公にした作品を何作品も残したほど、江戸の人たちには「盗賊もの」は人気があったらしいです。江戸の観客の気持ちを想像しながら、当時そのままの雰囲気のお芝居を観ると、タイムスリップしたような感覚になれるのでは。

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以上、5月歌舞伎座演目のざっくり紹介でした。
皆様の「歌舞伎はじめ」に、少しでも参考になりますように!(編集A)


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