【初心者さん向け!演目ざっくり紹介】3月歌舞伎座「三月大歌舞伎」公演
皆様こんにちは。
皆さまの歌舞伎観劇の第一歩をサポートする「歌舞伎はじめてガイド」。
歌舞伎を観てみたいけれど、どこから情報を得れば良いのかわからない…歌舞伎の演目名がずらっと並んでいても、どんな内容なのかがわからなくて困る!・・・そんな初心者さん向けの「演目ざっくり紹介」、こちらは2024年3月歌舞伎座編です。
3月の歌舞伎座は名作と呼ばれる人気演目がたくさん並んだ楽しみなラインアップです。
では、さっそく、演目についてご紹介していきたいと思います。
《昼の部の演目》『菅原伝授手習鑑 寺子屋』『傾城道成寺』『御浜御殿綱豊卿』
まずはじめの演目が、『菅原伝授手習鑑』という演目の「寺子屋」という場面。
『菅原伝授手習鑑』といえば、「三代名作」と呼ばれる古典の3演目のうちのひとつです。その中の『寺子屋』という場面は、『菅原伝授手習鑑』のなかでも1、2位を争う上演頻度の高い場面。それだけ人気のある芝居ということです。
この芝居に出てくるセリフで、有名な「せまじきものは宮仕えじゃなぁ」というせりふがあります。有名といっても、歌舞伎に馴染みがない方にとってはぜんぜん聞いたことないフレーズかもしれませんが。このことばを発する寺子屋の登場人物のひとり、武部源蔵は、「宮仕え」つまり「宮中で奉公する立場」。忠義を一番に考えなくてはならない!ということの辛さを嘆くセリフです。その嘆きは、この場に出てくるもうひとりのメイン登場人物・松王丸も同じ・・・。忠義と、人の親としての自分の感情とのあいだで揺れ動く登場人物たちが描かれる名作です。
「忠義」という道徳観は現代の私たちには馴染みがあまりなくわかりづらい概念かもしれませんが、人の心は変わらないんだと感じる、ぐっとくるお芝居になっています。古典だから…と敬遠することなかれ、名作と呼ばれて頻繁に上演されてきたお芝居だからこそ、観ていただきたい作品です。
続いて、『傾城道成寺』。
こちらは、舞踊の演目です。安珍清姫の伝説がモチーフになった「道成寺もの」は、歌舞伎舞踊の演目でも人気の題材で、いろんな「道成寺もの」があります。
こちらの作品にも、安珍が登場します。安珍清姫の伝説といえば、安珍に恋心を受け入れてもらえなかった清姫が蛇体となって道成寺の鐘ごと安珍を焼き尽くしてしまう…という恋の嫉妬の炎に燃えた女性のお話ですが、今回の登場人物の名前は清姫ではなく、「傾城清川」となっています。傾城(けいせい)というのは、廓の中でも位の高い遊女のこと。廓を舞台に、どんな恋模様が展開して、安珍清姫伝説とからむのか・・・そこは見てのお楽しみです。
メインは女方の踊りですが、前半と後半で雰囲気ががらりと変わります。歌舞伎の舞踊の美しさや表現の豊かさ、面白さを堪能できることと思います。
そして、『御浜御殿綱豊卿』。
こちらは、『元禄忠臣蔵』という、四十七士の討ち入り事件をもとにしたお芝居の中の一場面です。この『元禄忠臣蔵』は昭和になってから作られた作品で、いわゆる「歌舞伎」といってイメージするような「見得のポーズ」などがたくさん出てくるお芝居とは違います。セリフのやり取りで進行する部分も多く、どちらかというと「時代劇」といってイメージするものに近いかもしれません。
綱豊卿というのは、のちに江戸幕府の将軍となるお殿様。ひそかに、四十七士を応援したいと思っています。そのお殿様のところへ、四十七士のうちのひとり、富森助右衛門という男がやってきます。ふたりのセリフのやりとりで、緊張感あふれる腹の探り合い!…ぐっと引き込まれて時間を忘れます。お殿様の役は、懐の広い大きな人物というイメージで、今回演じる片岡仁左衛門さんの綱豊卿は絶品と評判です。「仁左衛門の綱豊卿」一度は観るべき価値があります。お見逃しなく!
《夜の部の演目》『伊勢音頭恋寝刃』『喜撰』
夜の部はまず、通し狂言『伊勢音頭恋寝刃』。
通し狂言というのは、「作品の最初から最後まで通して上演しますよ~」という意味。え、普通はやらないの?と疑問に思うと思いますが、歌舞伎は、最初から最後まで「通して上演しないことも多い」んです。歌舞伎は、物語のストーリーよりも「役者の芸を楽しむ」という側面が強い芸能でして、役者の芸がとことん味わえる「人気のある一場面だけを上演する」というスタイルでの上演が多くなっているんです。
・・・というわけで「通し上演」は逆に珍しく、わざわざタイトルの前に書いているということです。
今回上演される『伊勢音頭恋寝刃』も、後半の「油屋」「奥庭」という場面が人気で、だいたいその場面しか上演されないことのほうが多いです。でも今回は通し上演。歌舞伎初心者には通しのほうストーリーがわかりやすくなって入りやすいと思いますし、見どころの場面もちゃんと見られるのでおススメです。
それからこの芝居の主人公、福岡貢は、「ぴんとこな」と呼ばれる歌舞伎のキャラ設定で演じられます。「ぴんとこな」とはどういうキャラなのかというと、「やわらかな雰囲気の色気を持ちながらも、きりっと男らしさも見せる役・・・人気キャラです。二枚目キャラがぴったりの松本幸四郎さんが演じます。さらに、強烈にいじわるな仲居さんや、妖しい力を持つ刀などが絡んで、殺人事件まで展開する・・・という、ストーリーも面白い芝居です。
☆歌舞伎好き社員・藤之森のトークでも、『伊勢音頭恋寝刃』をおすすめしています。こちらもぜひチェックしてみてください。
そしてそのあとに『喜撰』。
こちらは舞踊の演目で、『六歌仙容彩』という舞踊の中のひとつです。(さっそくですが、こんな感じで舞踊も「通し」でやらなかったりする・・・)六歌仙というのは、平安時代に活躍した6人の歌の名人たちのことで、小野小町や在原業平や・・・今回登場する喜撰法師もそのひとりです。喜撰法師は、お坊さんの風貌で踊りますが、ひょうきんな感じの振りがおもしろい舞踊です。茶くみ女のお梶さんにちょっかいを出したりもします。
そして今回は、一緒に踊る所化たちが、ベテラン俳優からまだ小学生の、将来が楽しみな歌舞伎俳優たちまで、バラエティ豊かな顔ぶれがずらーっと並んでいるのも楽しみなところ。
楽しい踊りを盛り上げるのは、「長唄」と「清元」という2ジャンルの掛け合い演奏。華やかな和楽器演奏も合わせて、劇場での体験を楽しめるひと時になると思います。
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以上、3月歌舞伎座演目のざっくり紹介でした。皆様の「歌舞伎はじめ」に、少しでも参考になりますように!(編集A)
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