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「高木秀樹だより」季節の挨拶から芝居噺まで(6月22日号) ~阿古屋、歌舞伎と文楽

今回の記事は、高木秀樹さんの芝居噺を不定期でお届けする「高木秀樹だより」です。芝居好きの秀樹さんはこのコロナで公演がない期間をどう過ごしたか、そして、いま舞台映像が無料配信されている文楽『壇浦兜軍記 阿古屋』についてのお話です。


※解説者の連載第一回目ということで、ボリュームのある長さの記事となっています。

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文:高木秀樹

インターネット配信の舞台中継は嬉しいんですけど・・・

このたびの“コロナ騒動”、本当に大変なことになっておりますね。「おウチにいましょう」ということで、わたくしは4月と5月、ほぼ自宅に引き籠もりの状態でした。今となっては“最後”の公演となった2月。イヤホンの解説担当が歌舞伎座は『菅原伝授手習鑑』の「道明寺」、文楽はこれまた『菅原』の別の場面「佐太村」のところでした。3月末、NHKの劇場中継で「道明寺」の放送がありまして、改めて歌舞伎座の客席を眺めて見ますと、もうこの2月の段階で多くのお客様がマスクをしておられましたね。わたくしは決してしませんでしたけど・・・。


マスク画像

※いまはきちんとマスクをしております。ただいま愛用中のマスクは、文楽の某人形遣いさんから頂いた生地を呉服屋さんでマスクに仕立ててもらいました。


そして翌3月、東京では歌舞伎座・国立劇場・明治座と三座で歌舞伎が上演される賑やかな月に…なるはずでした。
初日を前にした各劇場では通常「初日どおり」の舞台稽古が行われます。しかし今回はコロナのため初日の順延が発表され稽古も予定どおりとはなりませんでした。「初日は3月19日に・・・」そんな嬉しい発表が一時はあったものの、ご存知のとおり結局は3劇場とも初日を開けることはありませんでした。

その月、わたくしの解説担当は国立劇場で、珍しく小劇場の方で『義経千本桜』が“通し上演”の形で行われることになっており、尾上菊之助が平知盛・いがみの権太・狐忠信という主要な三役を演じるのが目玉でした。とりわけ「すしや」でおなじみ、いがみの権太の役は今回が初役で、解説をする当方も気合が入っておりました。

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※2020年3月国立劇場 歌舞伎公演のチラシ。真ん中の立ち見が「いがみの権太」。


そんな舞台を皆様にも是非観て欲しい・・・という願いも空しく、結局のところ公演は中止に。前売り券を買った人など、もう諦めきれないところだったでしょう。そうした中、かつてないことで歌舞伎座や国立劇場では無観客の舞台をインターネット配信で公開するということが行われました。期間限定でしたが、皆様ご覧になられましたか?

わたくしは担当していた国立劇場の芝居を舞台稽古で拝見することができましたが、いやーステキでしたよ、菊之助の権太。「渡海屋・大物浦」の平知盛、「四ノ切」の狐忠信はもう立派に経験済み。「やっぱり権太は“線の太さ”が必要だから、菊之助には合わない・・・。芝居道で言うところの“ニン”じゃないのかなあ」などと余計な心配をしていたんですがトンデモナイ! 初役とは思えないくらい“情”もあるステキな権太で、わたくしは稽古中「音羽屋!」と叫んでましたね。もちろん心の中で、ですが・・・。

3月歌舞伎座の演目も無料で配信されましたが、わたくしはとりわけ歌舞伎座の夜の部『伊賀越道中双六』の「沼津」に注目しました。呉服屋の十兵衛は初役で松本幸四郎。(※一度、吉右衛門の代役で十兵衛を経験していますが、本興行では初役。)  そして生き別れになっていた父親で雲助・平作の役が松本白鸚。親子の役を白鸚・幸四郎という本当の親子が演じるんです。「白鸚が平作をやるの?」。配役の発表を耳にして驚きましたねえ・・・。

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※2020年3月歌舞伎座のチラシ。全公演が中止となりました。


これまで平作を演じましたのは、古いところで十三代目片岡仁左衛門や十七代目中村勘三郎。最近では中村歌六でしょうか、街道筋の荷物運び、雲助のジジイですから綺麗な役どころではありません。まあバッチイ役どころで、それこそ白鸚の“ニン”ではありません。ですから、インターネット配信に注目したんです。

結論から申しますと演技はステキでした。しかしいろいろと複雑な想いが残りました。カメラがアップでとらえる役者の表情・・・。それは普段の舞台中継と全く同じです。ところが拍手が無いんです。そりゃそうでしょう無観客なんですから。「高麗屋!」という掛け声もありません。花道の引っ込みで映るガランとした客席・・・。どれを見ても異常な光景でした。

劇場に行きたくても行けない・・・。嗚呼、あの舞台が観たかった・・・。そんなファンの声に応える、今回のインターネット配信は関係各位の正に“英断”だったと思います。しかしそれは緊急避難的な措置であり、やっぱり芝居のあるべき姿ではありません。われわれ観る方も、やる側も「観客あっての芝居」ということを今回改めて認識したのではないでしょうか。一日も早い公演再開が待たれますね。


ネット配信で『阿古屋』を観る

現在も、日本芸術文化振興会(国立劇場)のWEBサイト内「伝統芸能ホームシアター」というところで、いくつか過去の公演映像が配信されており、無料で見ることができます。

いま期間限定(6月30日12時まで)で公開されている演目のひとつ『壇浦兜軍記 阿古屋』のことに触れたいと思います。公開されているのは人形浄瑠璃・文楽の『阿古屋』で、歌舞伎のほうの『阿古屋』しか観たことがない方もぜひ、文楽のほうもご覧になってみてください。

映像はこちらで公開されています↓
https://www.ntj.jac.go.jp/topics/bunraku/2020/364.html

(平成31年1月上演の映像です)

平31.2 国立~阿古屋チラシ②

※2019年、1月は大阪の文楽劇場で、2月は東京の国立劇場で『阿古屋』を上演。


正式なタイトルが『壇浦兜軍記~だんのうら・かぶとぐんき』という阿古屋のお芝居。壇ノ浦とあるように物語は源平の合戦にまつわるお話で、長い原作の中では本来、阿古屋は脇役。全体で活躍するのは阿古屋の夫、悪七兵衛景清(あくしちびょうえ・かげきよ)という平家方の侍です。“悪”というのは悪人でなく豪傑という誉め言葉。平家滅亡後も生き延び源氏のトップ、頼朝の暗殺を目指すというスゴイ人物。
そんな奴を野放しには出来ないので、源氏方では妻である遊君(最高級の遊女)阿古屋を捕え「おまえの夫はどこだ、白状せよ」と責め立てる、いわば『阿古屋』の物語は裁判劇。秩父庄司次郎重忠・・・。やけに漢字が並びますが「ちちぶのしょうじ・じろうしげただ」と読みまして、この裁判官に当たる人物が阿古屋を尋問します。この重忠は、理性ある侍という役どころです。

さて『阿古屋』の物語で登場人物が出て来る最初のところ。義太夫節がその人物の“人となり”を語ってゆきます。通常、義太夫節の演奏では、一人の太夫が何人もの人物を語ってゆくところ、この『阿古屋』では複数の太夫が並び、配役に応じて個性的な語りをしてゆきます。


昔と今の語りの違い

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