《キニナル歌舞伎》極私的! 鶴屋南北の魅力
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《キニナル歌舞伎》極私的! 鶴屋南北の魅力

「イヤホンガイド解説者のひろば」の《キニナル歌舞伎》シリーズ、歌舞伎の中の「気になる!」ものに焦点を当ててお話を広げていきます。
今回は、話題の『桜姫東文章』の作者でもある四代目鶴屋南北について。四月歌舞伎座のWeb講座で『桜姫東文章』について熱く語ってくださった三浦広平さんが、南北の魅力にせまります。どうぞお楽しみください!

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文:三浦広平

見ました? 『桜姫東文章』上の巻

文字通りの大入となった、四月歌舞伎座の『桜姫東文章』。3月末に担当した配信講座の際、私はハイテンションで「2回観に行きます!」と申しましたが、2回目の観劇予定日は緊急事態宣言と重なり公演中止に。残念ながら前半の一度限りの見物となってしまいました……。
しかし本来の千穐楽近くに切符を取っていた人の中には、まったくご覧になれなかった方もいらっしゃるでしょう。ご無念やいかばかりとお察しします。と同時に、まことに芝居は一期一会との思いにも駆られました。

さて、上の巻と銘打った公演では、発端の江の島稚児ヶ淵から三囲の場までが上演されました。担当した配信講座では、物語前半のキモである桜谷草庵の場までを中心に、いろいろ余計なことをしゃべりながらご案内しました。(むしろその余計の方が面白かったとのお声も頂きました……フクザツデス)

三浦さんがご担当された、大人気のWeb講座。今ならなんと6月末までアーカイブ視聴が可能です。お見逃しなく!

実際に舞台を観ますと、たしかに前評判に違わぬ草庵でした。二人きりになった桜姫と権助が繰り広げる、しどけない濡れ場。仁左玉コンビの美貌と濃厚な色気が場内に満ち、またそれを受け止めるご見物の静かな熱気も、現在の席数は定員の半分ながら、あの満場の歌舞伎座が戻ってきた!と思われるほど高いものでした。


圧巻! 「三囲の場」

しかし、驚きはその後に。私が「ああ、これぞ南北だ……」と唸らされたのは、最後の三囲の場でした。
不義の罪で身分を奪われ、さすらう清玄と桜姫。春雨の降る三囲神社で、互いの姿に気づかぬ中、それぞれの独白がやがてひとつとなる割り台詞にゾクリとさせられました。
「会いたい」その気持ちは同じですが、清玄は(かつて言い交わした)白菊丸の生まれ変わりと思えば愛しさの募る桜姫に、桜姫は恋しい権助との間に生まれた我が子に――と相手が違う。その共鳴とすれ違いが、やがて暗闇に溶け合っていく、という幕切れを見せて上の巻は終わりました。
もう一度書きますが、この割り台詞が、本当に、本当に素晴らしかったのです

桜姫・清玄

歌川豊国「さくら姫・清玄」

と、話を続ける前に。聞かせどころの長ゼリフは、演劇の大きな見せ場のひとつです。そして歌舞伎の場合、これはしばしば七五調という耳に心地よいリズムが魅力とされます。河竹黙阿弥が書いたセリフの中でも、「知らざぁ言って聞かせやしょう」(弁天小僧)や「月も朧に白魚の」(三人吉三)あたりが代表格です。

もちろん、七五調そのものは黙阿弥さんが作り出したものではありません。
たとえば、百人一首の「瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の われても末に 逢わんとぞ思う」は平安時代の末に詠まれたもの(落語『崇徳院』でもお馴染み)ですが、声に出してみればこうやって五音、七音のあたりで区切りたくなります。七五調の音節は日本語が現代、ひいては江戸時代よりはるか昔から、長い時間をかけて培われてきた調子と言えるでしょう。


南北のセリフの面白さ

ところで『桜姫東文章』の作者・鶴屋南北は、黙阿弥が活躍した幕末~明治前期より半世紀ほど前の歌舞伎を作った人のひとりですが、ただいまの和歌のたとえのように、当然、南北さんの書いた台詞にも耳に心地いい七五調の部分はあります。ただ、黙阿弥さんが前述のような名ゼリフではその調子を崩さないのに対して、南北のリズムにはそれを語る人物の、心の揺れ動きをあらわすような破調があると思うのです。

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