わたしの好きな歌舞伎のセリフ
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わたしの好きな歌舞伎のセリフ

今回はイヤホンガイド解説者のひろば新シリーズ、「わたしの好きな歌舞伎のセリフ」をお届けします。
歌舞伎には一度聴いたら忘れられないセリフがたくさんありますよね。数え切れないほど歌舞伎を観劇してきた解説者にとってのイチオシセリフをご紹介していきます。

シリーズ第1回目の担当は渡辺まりさん。耳で楽しむ観劇体験の話を交えて、好きなセリフについて語ってくださりました。


***

文:渡辺まり

コロナ禍の劇場体験

最近、皆さんはどんな劇場体験をしておられるだろうか。以前と変わらず、劇場に足を運ぶ方もいらっしゃれば、お家のテレビやパソコンで楽しむ方もいらっしゃることだろう。
このコロナ禍で、演劇を取り巻く環境は変化してきている。最近は配信技術が進み、公演によっては、家にいながら劇場の上演を楽しむことができるようになった。録画された映像と違って、リアルタイムというのは、やはり映像とはいえ同じ時間を共有する体感が得られる。

歌舞伎ではコロナ以前も、お正月には生中継をテレビで見られたりもしていた。しかし思い返せば、かつてはリアルタイムの劇場中継の楽しみがあった。そう、ラジオの舞台中継である。私はすでにテレビ世代で、ラジオの時代は実際には体験していないが、ここでちょっと昔にタイムスリップしてみよう!

ラジオ


名優の名台詞に耳をすませば……

日本初の放送局が誕生したのは、関東大震災から2年後の1925年。その頃は、歌舞伎座や新橋演舞場も新築開場し、演劇界も活況であった。
そんな中、大正天皇銀婚式奉祝記念番組で、六代目尾上菊五郎らによる『鞘当』が放送された。これはまだスタジオからの放送だったが、ここからラジオと演劇の結びつきが深まりはじめたといわれている。

そして歌舞伎の舞台中継が行われたのはその2年後、1927年のことであった。十五代目市村羽左衛門、六代目尾上梅幸、四代目尾上松助による『源氏店』が、東京の帝国劇場から放送されたのだ。

皆、俳優たちのセリフが聞けるとの期待を胸に、ラジオのスイッチを入れて耳を澄まして待っていた。その中には、作家・劇評家として有名な、あの戸板康二もいた。
しかし、待てど暮らせど、ラジオから聞こえてきたのは、ヒューヒュー、ガサガサというような、風のような音ばかり……。もちろん、戸板お気に入りの、思いもかけぬ所で命をかけて惚れた女と再会した男の感慨が深く刻まれている、十五代目羽左衛門の与三郎のセリフ、「イヤサお富」のあとの、一拍おいての「久しぶりだなア」も、ラジオからは聞こえてこなかった。

〔源氏店〕〔櫛浮名三筋漆絵 明治15年6月上演 市村座〕トリミング

源氏店〔櫛浮名三筋漆絵 明治15年6月上演 市村座〕「俳優似顔錦絵」より


ちなみにマイクは舞台の天井、一文字(背景の上部や照明器具を隠すために、垂れ下げる黒幕)の陰に吊るしたそうだが、果たして、あんなところに吊るして、俳優のセリフがマイクに届くのだろうか……と、今ならツッコミたくなるところだ。

まあ当時はそんなこんなで、結局、この中継放送は雑音ばかりで聞き取れず、残念ながら失敗に終わってしまったのだった。もちろん、失敗したからには技術改良が必要、ということになり、それから4年後、ようやく中継放送は軌道に乗り始める。

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