忘れられない観劇体験!~音楽の都での歌舞伎観劇・後編~
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忘れられない観劇体験!~音楽の都での歌舞伎観劇・後編~

本日の記事は、市井佳代子さんが音楽の都ウィーンでの思い出を語る「忘れられない観劇体験!」の後編です。

前編ではウィーン国立歌劇場のチケット購入やワンピース探しに奔走していた市井さんですが、後編ではいよいよお待ちかねの歌舞伎観劇について語っていただきます!どうぞお楽しみください。

※前編の記事はこちら↓↓↓※


***

文:市井佳代子

こんにちは。市井佳代子です。
今回は、ウィーン公演へ行った時の話の続きです。


今回はホテルのお引越しから

1989年10月20日~25日に、ウィーン国立歌劇場で歌舞伎公演がありました。
この時の海外公演は、ベルギーのブリュッセル、東ドイツの東ベルリンとドレスデン、オーストリアのウィーンの4都市で行われ、私はその最後のウィーン公演を観に行ったのです。

まだ欧州が、東側諸国(ソ連を筆頭とする共産国)と西側諸国(資本主義国)に分かれていた時代です。本当は、美しい町ドレスデンにも行きたかったのですが、この年は春から東側諸国の各地で暴動が発生し、なにやら不穏な雰囲気。東ドイツもいつ何が起こるかわからないので、一人旅は危険だと思い、あきらめたのでした。
実際、この翌月の11月に、東西のベルリンを隔てていた壁が壊されるという歴史的大事件が起きるのですが、まさにその前夜のヨーロッパを私はフラフラと歩いていたことになります。

東側諸国の情況はともかく、ウィーンは平和でした。お天気にも恵まれ、小春日和の中順調に観劇準備も整いました。あとはホテルの引っ越しです。

アットホームなプチホテルを出て、歌劇場のすぐ近くのホテルにチェックインに行きました。すると案内された部屋はツインルームでした。シングルで予約したはずですが、覚えたてのドイツ語で電話で話したので、ちゃんと伝わっていなかったのでしょうか。

私はあせって、「シングルで予約したはず」と言うと、
「そうでしたが、ちょうどツインが空いたのでこちらをお使い下さい。」
「でもツインだとお金が払えません。」と言うと、
「シングル料金で結構です。」ですって!

部屋へ入ると、窓から国立歌劇場が見えました。がぜん気分が上がります。こうしてウィーン最後の日々は、ゆったりした広い部屋で快適に過ごすことになりました。


そしてついに観劇の日!

さあ、いよいよ観劇一日目です。
開演は7時なので、それまでは観光。夕方ホテルに戻り、窓から劇場を見ながら身支度です。国立歌劇場には一階席の後ろに立見席があり、人気の公演だと早くから立見席を取る人の列が入り口にできます。
今日はどのくらい並んでいるかなと、それを見るのも楽しみでした。チケットが取れなかったら私も立ち見に並ぶつもりでしたので、実際どのくらいの人が来るものなのか気になったのです。
列は日に日に長くなり、千穐楽には随分並んでいました。口コミで評判が上がったのでしょうか。うれしいことです。

このウィーンの歌舞伎公演は、日本オーストリア修好120周年の記念行事の一つであり、日本ではこの時期にウィーン国立歌劇場のオペラが上演されていたそうです。しかし日本で西洋のオペラが上演される頻度に比べ、欧州で歌舞伎や日本の観劇が上演されるのはごく稀なことで、まだまだ日本の文化紹介は遅れているという時代でした。
客席ではどのような反応があるのか、それも楽しみに劇場へ出かけました。

ウィーン国立歌劇場は外観も立派ですが、中は予想以上に豪華で華麗でした。まるで宮殿です。エントランス中央の大理石の大階段を昇る時は、もう貴族の令嬢気分。お客様が着飾って来るのがわかります。
暗めの照明が歴史的な重みを一層際立たせ、華やか且つ重厚な雰囲気が漂っています。一歩足を踏み入れた瞬間、日常から別世界へ飛んでいける魔法の空間でした。

この日の私の席は、一階の二列目でした。実際はオーケストラボックスをつぶして席を設けてあったので、一列目の前にも何列か席がありました。そのため舞台から適度な距離がありとても見やすい席でした。

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ウィーン国立歌劇場の中の様子


團十郎の貴重な”次郎冠者”

最初の演目は、『棒しばり』
團十郎と八十助(後の十代目三津五郎)の次郎冠者と太郎冠者。大名は左團次です。それまで十二代目團十郎の『棒しばり』を見たことがなかった私には、新鮮な舞台でした。今調べてみると、團十郎はこの時以外『棒しばり』の次郎冠者(棒で縛られる方の役)をしていません。
手を縛られる役・太郎冠者は若い頃演じてはいますが、棒の方は本興行でやっていないのです。この時の『棒しばり』が、團十郎が次郎冠者を演じた唯一の舞台でした。

一方、手で縛られる方の八十助は、同世代の勘九郎(後の十八代目勘三郎)とのコンビで既に何度も演じ持ち役になっていました。左團次の大名も何度も経験済みです。團十郎だけが初役だったわけですが、持ち前の大らかな芸風が松羽目物によく似合い、キビキビ動く八十助とのバランスも絶妙で、ウィーンの客席を大いに沸かせていました。


芸術の楽しみ方~オーストリアのご夫婦の場合~

幕間になると、隣の席のご夫婦が「日本人ですか?」と話しかけてきました。劇場に入って気がついたのですが、日本人をほとんど見かけませんでした。歌舞伎を見に来るようなオーストリア人は、多少なりとも日本に興味があるわけで、せっかく隣に日本人が座っているなら声をかけてみたいと思ったのでしょう。

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