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疫病退散祈願!歌舞伎の中の魔除け・厄除け

「解説者のひろば」今回は、歌舞伎の中に意外とたくさん出てくる魔除けや厄除けについてのお話。担当は中川美奈子さんです。

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文:中川美奈子

くまどりんアマビエ中川さん記事画像

(絵:宮澤瑠愛)

五感で楽しむ疫病退散

みなさま、この厳しい非常事態の中、いかがお過ごしでしたでしょうか。
あれほど世界中を自由に飛び回っていた飛行機も止めねばならないほどの疫病が、この21世紀に私どもに襲いかかるなど、どなたも想像だになさらなかったことと存じます。

今回、歌舞伎と厄除け・魔除けというテーマをいただきましたが、奥深い歌舞伎の世界ですから、とても一回でお話しし切れるものではありません。でも、せっかくの機会ですので、学術的な面からではなく、おおざっぱに、昔の人々がどんなやり方で疫病をはじめとする「嫌なこと」を避けようとしたのか、そしてそれらが、どんな風に表現されてきたのかを、私の好きな歌舞伎舞踊の中からいくつか選んでお話ししてみたいと思います。


“耳”からのお祓い

この自粛期間中、家事などしながら私がなんども繰り返し聞いたのは「三番叟」でした。

とりわけ終盤に向かって繰り返される旋律、力強く踏む足拍子は、聴き終わるとなんだか気分がすっきり。それもそのはず、日本舞踊の足拍子は、もともと「反閇(へんばい)」と言って、地面の下に潜む悪いものを踏みつけることから起こったものなのです。農耕民族である日本人にとって、土からの実りは何より大切なもの。豊かな実りを天に願うことこそが、日本の芸能の起源だったのです。

科学のない時代、突然襲う天災や疫病に苦しんだ人々にとって、できることはただ一つ、天に祈ること。踊りや歌を捧げて神様に喜んでもらい、再びの平穏を与えてもらうしかなかったのですから。

そして、「三番叟」にシャンシャンと響く鈴の音もまた、辺りの邪気を祓い、心持ちを明るくしてくれる大切なもの。下から7個、5個、3個と付いているので、通称「七五三の鈴」と呼ばれるもので、デザイン的にもなんて美しいのだろうと感心させられます。

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↑三番叟で使われる「七五三の鈴」

花道を進み出てきた三番叟が、客席に向かって鈴を振ってくれるときの嬉しさを思い出される方も多いと存じます。ちなみに、東京・新橋の烏森神社や、京都の八坂神社などでミニチュアが買えます!(もちろん私も持っております)

足拍子と鈴の音、この二つはいわば「耳から」のお祓いと申せましょう。


“見て”スッキリ

もう一つ、見てスッキリする踊りというと、布晒しを使う舞踊があげられます。「越後獅子」「近江のお兼」などが代表的なもの。
長い薄い絹で作られた道具は、「うちわ」と呼ばれる持ち手も入れると、長さも重さも相当なものですが、舞台に引きずらぬよう鍛錬を重ねた役者衆が振ると、生きているかのような美しさ。3月に明治座で上演予定だった「近江のお兼」の布晒しを、限定配信映像の中で壱太郎丈が見せてくださいましたが、みなさまご覧になられましたか?本当に一瞬でしたが、決して床に付くことなく、流れるような美しい曲線、ああ舞台で拝見したかったと溜め息が出ました。

晒し

↑布晒し。舞踊では、背丈の二倍近くある長さの晒しを振って踊ります。


大昔の日本では、別れの時に相手の無事を願って長い布を振る「領布(ひれ)振り」というならわしがありました。歌舞伎舞踊の布晒しはこれを取り入れたとされます。着物を作るためには欠かせない、きつい労働の布晒しが、太古からの美しい習慣と結びついたのです。江戸時代の人々も、舞台の上からお祓いを受けているような感覚を受けたのが、今に至る息の長い人気の秘密かもしれません。


吉祥文様を着るー衣裳ー

そして「身につける」お祓いといえば、美しい衣裳の数々に見られる、縁起の良い吉祥文様があげられます。

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