これが私の推し演目!~後味の悪さがクセになる?儚く消えた少女の夢~
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これが私の推し演目!~後味の悪さがクセになる?儚く消えた少女の夢~

イヤホンガイド【観劇に+αの楽しみを!】

今回はイヤホンガイド解説者のひろば「これが私の推し演目!」をお送りします。
今回の担当は横出葵さん。数ある演目の中から選んだ”推し演目”とは…!?どうぞお楽しみください。

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文:横出葵

歌舞伎に登場する女性たちは、私たちのように自由に恋愛ができない。

相思相愛の相手がいても、身分の違いから諦めざるを得なかったり、決められた許嫁との結婚を余儀なくされたり。さらには、愛する人のために身売りをしたり、命を捧げたり…。

そういう芝居を観た後は実にやるせない気持ちになる。
にもかかわらず、モヤモヤする感覚が癖になり、なぜだか何度も観たくなる…。私にはそんな作品がいくつかある。その一つが『新版歌祭文』。作者は近松半二である。

近松半二って?


近松半二は大阪生まれ。父親は穂積以貫ほづみこれつらという有名な儒学者で、近松門左衛門と親交が深かった。道頓堀にあった人形浄瑠璃の劇場「竹本座」のアドバイザーでもあり、浄瑠璃の解説書として知られる『難波土産』に、近松門左衛門の虚実皮膜論きょじつひにくろん」(※)を聞き書きで記したと伝わる。
やがて半二が竹本座の浄瑠璃作者となったのはそんな父の影響であろう。近松門左衛門に直接師事したわけではないが、リスペクトを込めて近松姓を名乗った。
半二が活躍した時代は、それまで歌舞伎よりも圧倒的に人気があった人形浄瑠璃に翳りが見えはじめていた。そんな人形浄瑠璃のピンチを救ったのが、半二が手掛けた幾つかの名作である。『新版歌祭文』(1780年初演)もそうしたヒット作の一つで、後に歌舞伎にも取り込まれた。

※本当の芸術は、フィクションと事実の間にあるという考え方

歌舞伎や文楽ではお馴染み「お染久松」

この作品は、実際に起きた心中事件がベースになっている。今の大阪市中央区にあった油屋の娘のお染(16歳)と、店の丁稚久松(お染と同年代か?)は恋仲だった。お染は嫁ぎ先が決まっていたが久松の子を宿しており、一家が留守の間に、お染は剃刀で、久松は首吊りで心中を遂げたのである。
油は当時は高級品。それを扱う商人も利益を得ていた。裕福な家のお嬢様と、使用人の道ならぬ恋...。この事件は、世俗的なニュースを三味線の演奏で歌う「歌祭文」として芸人たちによく歌われて広まったという。

『新版歌祭文』の”新版”は”ニューバージョン”の意味であるから、譬えて言うなら、ワイドショーで有名になったお染久松事件に、いくつか新たなアレンジを加えて出来たのが本作である。
私が推す『野崎村』の場面も半二が独自に創作した部分。ここでの主人公は”お光”という少女である。

 推したい芝居(オシバイ)『野崎村』のストーリー

油屋に奉公する丁稚・久松は、横領の罪を着せられ、大阪の野崎村にある実家に戻される。
実家には父母(久作・およし)とお光が暮らしている。父母は育ての親で、久松は父母ともお光とも血の繋がりがない。父の久作はこう考えている。

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