歌舞伎の沼からこんにちは。~私はこうして歌舞伎にハマった~ #18
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歌舞伎の沼からこんにちは。~私はこうして歌舞伎にハマった~ #18

イヤホンガイド解説者たちが、歌舞伎や文楽の魅力にハマった経緯や芝居への愛を語るシリーズ「歌舞伎の沼からこんにちは」。

今回は英語解説者の柳下国興さんがご担当。柳下さんは音声のイヤホンガイド と歌舞伎座の字幕ガイドを担当されています。(現在は感染症拡大防止のため、英語解説・字幕ガイドの貸し出しはありません)
言語の垣根を超える英語解説者としての視点で、歌舞伎の魅力を語っていただきます。

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文:柳下国興

まさかのハプニング

一度は歌舞伎を、と何気なしに入った歌舞伎座。舞台では女性としか思えない船頭が魯を漕ぎながら、「センタローッ!」と甲高い声で叫んでいる。岸辺で応えるセンタローも女性。幕間に外に出て歌舞伎座の建物を感心しながら見上げた。そして、看板を。「SKD夏の踊り」とあった。今はもうない少女歌劇団のレビューだった。
歌舞伎の「か」の字も知らなかったことでの失態。恥ずかしかった。しっかり知ろうと思った。演目を観る前に台本を読んだ。文楽では床本を。英語解説も聞いた。自分でも訳してみた。

歌舞伎・文楽の心地良い言葉の沼にハマり、解説を買って出たのが四十数年前。歯切れのいい軽妙なセリフに酔い、重厚な言葉の連なりに圧倒された。『奥州安達ヶ原』のお君の健気な言葉に泪した。

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英語でどう伝える?

『たぬき』という演目に「たぬきの八畳敷」と愉快な言葉がある。それを英語でどう伝えるか。「タヌキ」を「Japanese raccoon dog」にしては無味乾燥。それに「eight tatami mats」を重ねたら観客は底なし沼に。日本人が「たぬき」と聞けば「証城寺のたぬき囃子」を口ずさむ人もいれば、「たんたんたぬきの~」を耳にした幼いころの面映ゆい想いにつなげる人もいるだろう。でも外国人にそのイメージはない。

そこで、幕が開く前の前説で説明する。『たぬき』の場合、「居酒屋の前で酒瓶をぶら下げたヒョウキンな顔をした置物を見たことがあるかも知れませんが……」と始めて、「タヌキなる動物は、ひと昔前までは時々人間を化かしたりする動物と思われていました。それで、ずるがしこい男のことを『狸おやじ』と言います。これからご覧になるのはそんな男の話」と続ける。

でも悲しいかな、お客様の大半は、解説は幕が開いて始まるものと思っていて、歌舞伎座では字幕ガイドを読んでくれない。国立劇場では音声ガイドを聞いてくれない。席番号を確かめたり、荷物を座席の下に収めたり、提灯を眺めていたり。それでも、きっと何人かは読んでくれる、聞いてくれるとの淡い期待を抱いてあれこれ工夫する。実は、これが楽しい。

で、本編では「たぬきの八畳敷」をどう訳すかというと、訳さないで逃げる――「これはたぬきをダシに使った下ネタです」と。

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『外郎売』の「武具馬具武具馬具三武具馬具~」はどうする。役者さんは聴かせどころだが、こちらは、「ラップ・アーティストがシャレを交え、韻を踏ませて能書きをまくしたてているようです」と逃げ口上。


ロシア語の思い出

逃げきれずに、馴染みのない言葉のヌカルミにハマったことがある。『月光露針路日本』。ロシアに漂着した大黒屋光太夫たちの壮絶な物語。

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