《第四回》「勝手に深掘り!歌舞伎・文楽」~作家山本周五郎の視点 -『泥棒と若殿』と『絵本合法衢』-
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《第四回》「勝手に深掘り!歌舞伎・文楽」~作家山本周五郎の視点 -『泥棒と若殿』と『絵本合法衢』-

「イヤホンガイド解説者のひろば」今回は鈴木多美さんがご担当。
これまでの解説経験で「何故?」と思った疑問を、多美さん目線で深掘りする不定期連載企画「勝手に深掘り!歌舞伎・文楽」の第四回をお届けします。
さて、今回は文芸界でも有名な山本周五郎原作の人気作品『泥棒と若殿』について。今月の歌舞伎座二月大歌舞伎で久々に上演されています。実はその『泥棒と若殿』、大悪党が登場する歌舞伎作品『絵本合法衢』と共通点があるらしい…? さっそく深掘りしていきましょう!

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文:鈴木多美

『泥棒と若殿』イヤホンガイドを2回担当

今月の二月歌舞伎座第一部で『泥棒と若殿』が上演されています。これは昭和の時代小説作家、山本周五郎が昭和24年に雑誌「講談倶楽部」に発表した短編小説です。テレビの時代劇で度々放映されましたが、舞台化したのは昭和42年。翌43年には歌舞伎座で5代目中村富十郎の伝九郎、林成年(長谷川一夫の息子)の松平成信の配役で上演されました。

前回の歌舞伎座上演は平成19年の坂東三津五郎の成信、尾上松緑の伝九郎でした。このコンビは平成22年の地方巡業でも共演し、いずれも私がイヤホン解説を担当しました。

『泥棒と若殿』あらすじ
主人公は大聖寺の領主の次男・成信です。父が病気で倒れ、お家騒動が勃発します。悪家老は脳病を患う長男・成武を次期領主にと画策し、成信は国許の鬼塚山の古い山荘に幽閉されてしまいます。食べ物も尽きて飢え死にしそうな成信のボロ館に間抜けな泥棒が忍び込みます。泥棒は江戸っ子の流れ者伝九郎で、伝九郎は瀕死の成信を気の毒に思い、真っ当に働いて成信を養います。成信も伝九郎の真っすぐな心に触れて、二人は「伝九」「信さん」と呼び合い身分を越えた友情が芽生えるのですが…。


幕切れではいつも三津五郎丈が目を真っ赤にして花道揚幕に入りました。松緑丈の「信さん」と叫ぶ声はちょっと涙声でした。幕が閉まってお手洗いに行くと、大勢の女性客が鏡に向かいます。皆さん感激の涙で崩れた化粧を直していました。周五郎作品に流れる温かい思いが伝わったのです。

今月の『泥棒と若殿』についてはこちら!


山本周五郎とは

山本周五郎の本名は清水三十六(さとむ)。明治36年(1903)に山梨県で生まれ、武田信玄の家臣の出といいます。幼少時山梨県を襲った山津波で損害を被った一家は上京し、横浜へ移ります。小学4年の時担任から文筆の才能を見出され、作家になる決意をします。

さとむは13歳で東京銀座の質屋「山本周五郎商店」に奉公します。この質屋は5代目尾上菊五郎も通ったそうです。主人・山本周五郎は奉公人を英語学校や簿記・会計の夜学に通わせる篤志家でした。質屋は質物を持ち込む人が抱える深刻な事情が見え隠れします。さとむは13歳から20歳までの多感な年頃にここで多くの人生の縮図を見て育ったのです。

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