《キニナル歌舞伎》歌舞伎や文楽に出てくる不思議な文字
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《キニナル歌舞伎》歌舞伎や文楽に出てくる不思議な文字

「イヤホンガイド解説者のひろば」の《キニナル歌舞伎》シリーズ、歌舞伎の中の「気になる!」ものに焦点を当ててお話を広げていきます。
歌舞伎を観ていると、文字にまつわる気になることが意外とたくさんありませんか。その気になる文字の謎を、髙橋ひさしさんが解明します!

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文:髙橋ひさし

今回「お芝居で目にする奇妙な文字や不思議な漢字などをテーマに記事を」とご依頼をいただきました。歌舞伎と言えば豪華な衣裳や独特の化粧はいつも取り上げられますが、確かに「文字」がテーマに取り上げられることはあまりありませんね。私は関西在住ですので上方歌舞伎や文楽の話題がメインになってしまいますが、お時間がございましたらどうぞお付き合いください。

歌舞伎と言えば、あの字

昨年、関西で歌舞伎興行が本格的に再開されたのは、歌舞伎座から遅れること4か月後、京都南座の吉例顔見世興行でした。徹底した感染対策は当然のこと、例年より上演期間・時間ともに短縮するなど異例ずくめの公演でしたが、南座の正面に掲げられた役者の名前を書いたまねき看板を見上げると、「ああ、今師走なんだ」と久々に季節を実感し胸が熱くなりました。

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こちらの画像は2018年のもの。
亡くなられた坂田藤十郎さんのお名前も見えます。


そんな南座の顔見世の顔とも言えるまねき看板は、『勘亭流』と呼ばれる独特の芝居文字で書かれています。まねき看板は縦約1.8m、横約30cmの檜の板いっぱいに太い文字で出演俳優の名前が書かれます。余白が少ないのは『劇場が満席になりますように』という願いが込められているからです。
また、まねき看板の上には庵形が付いていて漢字の「入」に見えるところから『入山形』(いりやまがた)と言って、これも大入りを願い縁起を担いでいます。『入山形』は上方、関西地方の風習で、江戸、東京になると『への字』型のまねき看板になります。



芝居の題名に隠されたお約束

縁起を担ぐと言えば、お芝居の題名(本外題、本名題)も縁起を担いで陰陽道の「陽」の数字、つまり七・五・三といった奇数になっているものが多くを占めます。歌舞伎や人形浄瑠璃の黎明期の作品(『生玉心中』、『出世景清』等)や、明治以降の新歌舞伎(『天守物語』、『頼朝の死』等)、
そして現代の新作歌舞伎(『風の谷のナウシカ』等)では字数が偶数の演目も見受けられますが、例えば三大名作と言われる『菅原伝授手習鑑』は七、『義経千本桜』は五、『仮名手本忠臣蔵』も七、と言ったように、そのほとんどが奇数です。この1月に新橋演舞場で上演された歌舞伎十八番の内『毛抜』は二文字で偶数ですが、これはトラップで、もともと『雷神不動北山櫻』という長いお芝居の一場面なのです。

現在、国立劇場小劇場で上演中の人形浄瑠璃・文楽の『曲輪文章』(※文章は文+章の一文字・画像参照)は、歌舞伎の『廓文章』と区別するために「廓」を「曲輪」に変え、さらに「文章」の文字が一文字で表現されています。
奇数に収めるために無理やり作字してしまうとは、執念のなせる業ですね…。

廓文章


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