
歌舞伎の沼からこんにちは~私はこうして歌舞伎にハマった~#1
今回の記事は、解説者それぞれが歌舞伎の魅力の沼にどうやってハマったのかをお話ししていくエッセイ的な記事のシリーズ「歌舞伎の沼からこんにちは」をお届けします。
今日のご担当は、横出葵さんです。
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文:横出葵
「歌舞伎の沼からこんにちは」
沼に入るとズブズブ沈んで抜け出せないことから、何かに夢中になることを「沼にハマる」というらしい。アイドルやアニメ、ゲームなど沼にも色々あるが、私が棲むのは「歌舞伎沼」。沼民になって、かなりの年月が経つ。
沼への入り口
きっかけは、彼からの意外なお誘いだった。
「週末、歌舞伎座に行かない?」
「え?歌舞伎? 久々のデートなのに堅いなあ。ディズニーシーとかがいいな~」
・・・と言いたかったけれど、機嫌を損ねたらやっかいだ。
ま、チケット代は出してもらえるし、ディナーは銀座で美味しいもの食べられるかも。
瞬時にソロバンをはじいた私は、
「歌舞伎、観たことない!行ってみた~い♡」
と、20代女子らしい模範解答で返したのだった。それが沼への入り口であるとも知らずに。
期待は“ゼロ”
当時、私は芸能プロダクションの社員だった。
お笑い芸人がメインの事務所で、同僚も皆パンチが効いていた。
楽しくて刺激的な毎日。
「歌舞伎なんて、いわば対極にあるよね。昔から伝わる儀式みたいな感じでしょ。高尚な趣味だし、私なんかが観るもんじゃないだろうな」
恥ずかしいを通り越して清々しいほどの勘違いだが、歌舞伎に馴染みがない人は得てしてこういう認識である。
ともあれ、期待ゼロで臨んだ歌舞伎デビュー。演目は『身替座禅』だった。
当然、浅はかな予想は裏切られ、富十郎さん&吉右衛門さんという配役がいかに豪華かも全く知らぬまま、私はただケラケラと笑っていた。

↑歌舞伎観劇デビューした時のチケットと筋書
“エラいお殿様が、怖い奥さんの目を盗み、愛人に会いに行く”という、今なら週刊誌の下世話な記事になりそうなストーリーが、品の良い笑いになっているのが新鮮だった。歌舞伎、めちゃくちゃ面白い!
気分が上がり過ぎて、楽しみにしていた銀座ディナーに何を食べたのかは全く記憶にない。
ただ、その夜は、眠りにつくまでずっと、フワフワと幸せな感覚だったことはよく覚えている。
沼民としてのポテンシャル
翌月のある休日、私は再び歌舞伎座に向かっていた。
《イヤホンガイド解説者のひろば》に掲載したエッセイシリーズ「歌舞伎の沼からこんにちは」10本をひとつのマガジンにまとめました。歌舞伎にハマ…
歌舞伎の沼からこんにちは~私はこうして歌舞伎にハマった~#1
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