
歌舞伎の沼からこんにちは。~私はこうして歌舞伎にハマった~#4
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解説者それぞれが歌舞伎や文楽の魅力の沼にどうやってハマったのかをお話しする記事のシリーズ「歌舞伎の沼からこんにちは」。
第4回目は、渡辺まりさん(今月は国立劇場の文楽公演『壺坂観音霊験記』の解説を担当)の記事をお届けします。
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文:渡辺まり
(※文中の俳優名は、上演当時の名前で表記しています。)
沼底の私、外界を知らず
歌舞伎の沼。それは、とても広くて深いらしい…。実際に足を踏み入れてみないと、その深さはわからない。ちょっと片足を突っ込んだくらいなら、すぐに引き返せる。でも踏み込んだら最後、そこは底無しである。
かくいう私も、その沼の底に住んでいる。でも「どうやってハマったのか?」と聞かれても、正直…、「わからない」。だって私は、沼にハマったことも、落ちたこともない。なぜなら、沼生まれ沼育ちだからである。
子供の頃から、祖母や母、芝居好きの方が私を劇場に連れて行ってくれた。もちろん当時は、話の筋や出演している人のことなど、よくわかっていなかったし、そもそもそんなことに、それほど興味はなかった。筋書きだって、まともに読んだ試しはない。それでも芝居を見るのは楽しかったし、幕間にお弁当やおやつを食べ、客席で良い音を聞きながら寝るのも悪くはなかった。
だから、初めて見に行った芝居がいつの何であったか、記憶を辿ってみてもおぼろげだ。でも不思議と、印象に残っている舞台というのがある。もしかしたらそれは、沼に生きる者の通過儀礼だったのかもしれない。
白塗りの異様さ
中学生ともなると、わりと記憶にも残りやすいのか、歌舞伎も文楽もいまだに覚えている舞台がある。
2000年3月、私は歌舞伎座で夜の部の『菅原伝授手習鑑』を観ていた。
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