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《歌舞伎×○○》 歌舞伎好きな私が語る『鬼滅の刃』の魅力(前編)

本日の記事は、芝居好きの解説者たちに、様々なジャンルについて歌舞伎好きの視点から語ってもらおうという《歌舞伎×○○》企画をお届けします。

今回は、《歌舞伎×鬼滅の刃》。三浦広平さんが担当です。いま話題の人気漫画『鬼滅の刃』と「歌舞伎」には通じるところがある…!?『鬼滅の刃』をご存じない歌舞伎ファンの皆さんにも興味を持ってもらえそうなポイントがたくさんあるそうです。

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文:三浦広平

コンビニ、レストラン、ドラッグストア、アパレルなど各種チェーン店で、今やそのコラボレーション商品を見ない日はない『鬼滅の刃』。このマンガは2016年2月に週刊少年ジャンプで 連載スタート、2020年の5月に完結しましたが、現在も新刊コミックの発売日には特装版を求めて書店に行列ができています。出版不況と言われて久しい世の中で、コミックス発行部数は7月時点で8000万部。最終巻が発売される年の瀬には、1億部に届くのではないでしょうか。

平成マンガの金字塔として、今も連載中でスーパー歌舞伎にもなった『ONE PIECE ワンピース』の累計が4億7000万部(96巻)、世界中に愛読者のいる『ドラゴンボール』が2億7000万部(42巻)。並べてみても、全23巻で1億部に迫るというのは見劣りしない、ものすごい数字です。本年はいわゆるコロナ禍で、あらゆるカルチャーが本当に苦しい状況下にありますが、その中でヒット街道をぶっちぎりでひた走っている『鬼滅の刃』。今回はいち芝居好きの目から、面白いと思った点をいくつかお話します。

令和初の大ヒットは「剣劇もの」

まずはこの作品が剣劇もの(剣戟とも)だということからスタートしてみます。「剣劇」とは文字通り剣を交える劇ですが、これは大正時代に生まれた演劇です。

明治時代の末、日本の劇界には大きく分けて三つのジャンルがありました。一つはもちろん歌舞伎。その歌舞伎を旧劇ととらえ、リアルタイムの人間の心情に迫る現代劇として登場したのが新派、これが二つ目。三つ目はすでに近代化を成し遂げていたヨーロッパの西洋演劇を軸に、商業主義よりも芸術性の高い舞台を目指した新劇

そして大正初期。この三つに割って入ったのが、澤田正二郎の率いた新国劇です。彼は舞踊的で、様式美が見どころの歌舞伎の“立ち廻り”を発展的に継承し、これを激しくスピーディー、迫力あるものに作り変えました。殺陣(たて)といいます。現在でも、いわゆるチャンバラの演出担当を殺陣師(たてし)と呼びますが、もともとは新国劇で考案された言葉です。

新国劇は大正時代の青年の心を掴み、特に『国定忠治』や『月形半平太』が当たり狂言となり、劇団には多くの入団希望者が集まりました。ところが澤田は36歳の若さで急逝。その死の三日前の辞世の句が、舞台に立った新橋演舞場の切符売り場の裏に、石碑として残されています。

↑新橋演舞場の紹介記事。石碑の写真も掲載されています。


志半ばで倒れてしまった澤正(さわしょう・ 愛称)ですが、彼の考案した殺陣はサイレントの活動写真からトーキーの映画、そしてテレビや大衆演劇へと受け継がれ、時代劇とは切っても切れないものになりました。また新国劇は辰巳柳太郎・島田正吾が人気の二枚看板となり、昭和の末まで存続。現在では座員であった笠原章さんが劇団若獅子を結成し、そのレパートリーを継承しています。

ちなみに歌舞伎とのつながりでいうと、この新国劇のために脚本を書いていたのが、おなじみ『鬼平犯科帳』の作者・池波正太郎です。また島田は晩年、請われて歌舞伎座の舞台に立ち、六代目中村歌右衛門、十八代目中村勘三郎と共演しました。2017年には当代猿之助さんが若獅子の舞台『月形半平太』に賛助出演するなど、現在の歌舞伎界にとっても縁浅からぬ関係と言えるでしょう。


ということで、歌舞伎をルーツに誕生した剣劇は、マンガでも数々の作品になっています。平成に入ってからは初期の『るろうに剣心』、中期には『銀魂(ぎんたま)』、そして後期にスタートした『鬼滅の刃』と、だいたい10年くらいの周期でヒット作が生まれています。前の二つはアニメ、映画、舞台などメディアミックス展開されましたが、『鬼滅の刃』も昨年春から秋にテレビアニメが放映、来月は劇場版の映画が上映される予定です。

↑『鬼滅の刃』映画は10月16日公開予定


ここからは、歌舞伎のような味わい“歌舞伎味”という視点から、具体的に作品『鬼滅の刃』の中身を見ていきましょう。なおネタバレは極力控えていますので、ご安心ください。


第一話から鬱展開…まるで〇〇〇

『鬼滅の刃』物語の設定は大正時代。ただしリアルな大正ではなく、人々の脅威として鬼が実在する世界です。

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