見出し画像

夏に観たくなる!“ナツい”作品たち

6月といえば「梅雨の季節」。「夏」と呼ぶには体感的にはちょっと早い…?でも、季節の先取りは縁起が良いそうです。

今回は、やってくる暑い夏に向けて、夏をめいっぱい感じられるような「夏に観たくなる作品」特集です!


***
文:飯村絵理子

「ナツい」と言えば、「懐かしい」のスラングだが、私にとっては高校時代の夏に友人が放った「夏らしい」と「暑い」をかけた言葉だ。

夏とはなんだか情緒が濃い。誰もが毛穴から汗を滴らせ、肌とともに本能を露出し、人間が動物であることをまざまざと感じさせるのが、夏。
「♪カラダを夏にシテ カゲキにさあ行こう」というのが夏。
つまり端的に言えば、人間の全てが包み隠さず「臭う」のが、夏なのだ。
そのイメージが「ナツい」と言う言葉に載っている。


蒸れを潜ませる、夏めいた女性

そんな「ナツい」作品の代表格が『夏祭浪花鑑。タイトルに「夏祭」とあるのでわかる通り、夏祭の時節が舞台。

大坂の日本橋、高津宮の祭礼の飾りや浴衣の登場人物がまず夏の雰囲気を醸し出す中で、「釣船三婦内の場」に登場するのが、お辰という女性だ。襦袢が透ける紗の夏着物を襟を返して胸元ちらり。そこへ艶やかな博多献上の帯をキリッと締めて、日傘を差してやってくる。

紗は見た目が涼しげだけれど、エア◯ズムのような機能があるわけもなく、着ていれば暑い。着物の下に蒸れを潜ませながら、その後、お辰は驚くような行動に出て、気っ風を吹かせるから、まさに夏めいた女性だ。


泥と汗の入り混じる臭い

その場に続くこのお芝居のクライマックス「泥場」(※)の舞台は、夏祭の夜。魚売りの団七がふんどし一丁で泥まみれになりながら、やむを得ず舅・義平次をやっとの思いで殺す。

強欲で性根の悪い義平次のねっとりまとわりつくようなしつこさ、そして体にへばりつく泥が、男二人の汗の臭いと混じって漂ってくるかのように思う。

その後、聞こえてくる祭囃子。団七は震える手で刀の泥を洗い流し、汗にまみれた体に着物を羽織り、ざんばら髪に頰被りをして、踊り狂う男たちに紛れて逃げていく。そう、このお芝居は、とにかくムワッとした空気感と、人の欲や感情を濃度高く臭わせる、夏そのもののお芝居なのだ。

(※注:舞台に泥が敷き詰められた中で芝居が進行する場面)

(トリミング済)團七

団七九郎兵衛(豊国) 国立国会図書館蔵


幽霊=夏狂言

次に「ナツい」作品と言えば、こちらも定番だけれど『東海道四谷怪談』。このお芝居は「お岩さん」の怨霊が出てくるから怖い、あるいは怨霊が驚くような仕掛けで神出鬼没に現れるから怖い、というイメージがスタンダードかもしれない。

確かにこのお芝居は、真夏の暑い時期用に作られた「夏狂言」の作品だ。夏狂言とは、江戸時代の芝居小屋で、若手たちを中心に安い料金で行われた夏の興行のこと。

口を開いて話すのさえダルい真夏。メインの役者たちは休みをとったり、地方に巡業に出る上、冷房設備なんてない芝居小屋に客足は遠のく。そこで、若手役者を中心に、怪談ものや水を使った仕掛けのある涼しさを演出した芝居をかけたのが、夏狂言の始まりだった。四谷怪談もそのひとつで、だから幽霊の出る奇抜な演出が売り物なのだ。でも、このお芝居が「ナツい」のは、そこだけではない

この続きをみるには

この続き: 1,824文字 / 画像2枚
記事を購入する

夏に観たくなる!“ナツい”作品たち

株式会社イヤホンガイド

150円

この記事が参加している募集

夏のオススメ

ありがとなの~♪ byくまどりん
おもに歌舞伎や文楽など、伝統芸能をわかりやすく解説する劇場サービス「同時解説イヤホンガイド」を運営している会社です。イヤホンガイド解説者の記事やトークを配信中!https://earphoneguide.eg-gm.jp/m/m2752100a0106