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春に観たくなる作品 ~『妹背山婦女庭訓』『桜の森の満開の下』~

あっという間に2021年も3月半ばを迎えようとしています。陽気も暖かく、春を感じることが多くなりました!

お芝居の中にも日本の四季がたっぷり盛り込まれていますね。今回は『春に観たくなる作品』ということで、横出葵さんに2作品ご紹介いただきます。

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文:横出葵

「“春に観たくなる作品“をテーマに、ご執筆いただけませんか?」

イヤホンガイドnoteの編集担当者からのメールである。3月半ば以降の掲載ということなので桜にちなんだ演目が良いのだが、「春=桜」だけでは解説者として芸がない。

「桜以外の芝居も考えてみます。」

返信して頭を捻らせてはみたものの、どうにもピンとこない。万葉集にも桜を詠んだ歌が数十首もあるし、清少納言は『枕草子』に「春ごとに咲くとて 桜をよろしう思う人やはある(毎年咲くからといって、桜を見飽きたという人はいない)」と綴った。古くから、春といえば桜というのが日本人の精神で、桜は我が国の伝統文化・芸能に不可欠なもの。というより、桜そのものが日本の文化なのかもしれない。

歌舞伎と桜

今月の歌舞伎座に目を向ければ、第三部『楼門五三桐』で、石川五右衛門が南禅寺の山門の上から「絶景かな、絶景かな」と愛でるのは満開の桜であるし、第二部『熊谷陣屋』でも、物語のキーとなる「一枝を切らば一指を切るべし」と書かれた制札が立つのは、咲き誇る桜の前だ。

京都南座で上演されているのはタイトルもずばり『義経千本桜』から『吉野山』。市川海老蔵「古典への誘い」の『弁天娘男女白浪』のラストでも、五人男が名乗りを上げるのは桜真っ盛りの稲瀬川の土手である。


他にも『京鹿子娘道成寺』を始めとする「道成寺物」の舞踊では、大道具は勿論のこと、長唄囃子連中の裃まで桜一色。また、義太夫狂言『金閣寺(祗園祭礼信仰記)』で印象的なのは、桜の木に縄で縛られ、身体が十分に動かぬ雪姫が、花吹雪の中で花びらを足で集めて爪先で鼠を描く場面。描いた鼠に魂が宿って縄を噛み切り、雪姫は解き放たれる。小道具の鼠は、役割を終えると体が割れ、中に詰め込まれた花びらがヒラヒラと宙を舞う仕掛けで、儚くも美しい演出に、客席からは溜息にも似た歓声が上がることも。

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・・・と、桜にまつわる演目を挙げればきりがないが、今回私が何をご紹介したいかに迷いはない。一つは、私が歌舞伎の中で最も愛する古典作品。もう一つは、近年衝撃を受けた新作歌舞伎である。

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