忘れられないあの舞台!~1985年の桜姫東文章~
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忘れられないあの舞台!~1985年の桜姫東文章~

解説者が想い出の舞台について語る「忘れられないあの舞台!」。
今回のご担当は中川美奈子さん。
伝説の舞台とも評される昭和60年(1985年)3月歌舞伎座にて上演された、『桜姫東文章』について…どうぞお楽しみください。

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文:中川美奈子

先月末のこと、いつもお世話になっているnote担当の方から、テーマを二つ提示され、どちらかを書いてみませんか、とのお話がありました。一方については、あれやこれや頭に浮かんでは消えるのですが、もう一方は「忘れられない舞台」というテーマ。もしこのテーマで書くなら、「あれ」しかないな…と思いつつ、その日を過ごしました。

ちょうどその翌日、歌舞伎座の4月の演目が発表されました。そのラインナップを見た私は、嬉し涙を止めることができませんでした。演目発表を見て、静かに泣いたのは生まれて初めてのことでした。なぜなら、もう二度と見ることはできないだろうと思っていた「あれ」が、第3部にかかることがわかったからなのでした。あの、『桜姫東文章(上の巻)』が。

しかも、私が青春を捧げたと言っても過言ではない、孝夫丈(現・仁左衛門)・玉三郎丈のコンビで再び上演されるとのこと。そんなわけで、今回は若き日の私を虜にした『桜姫東文章』の魅力を、上の巻を中心に書かせていただきたいと思います。


大学時代・歌舞伎観劇の日々

当時の私は日本文学科の大学生、家庭教師のアルバイトをしては、せっせと歌舞伎座の三階や幕見席に通い、ブロマイドを買うのが楽しみでした。幕見席には、今のようにエレベーターなどなく、仲の良い友人たちと4階まで駆け上がったのも、懐かしい思い出です。当時は、歌舞伎座、国立劇場、新橋演舞場、明治座、複数の劇場が同時に開くことも多く、だいたい毎月3回ぐらいのペースで歌舞伎を見ていたでしょうか。インターネットなどない時代ですから、毎月の前売り日が近くなると、新聞の夕刊に演目が出るのが楽しみでした。

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衝撃的なポスター、そして『桜姫東文章』との出会い

しかしその春は、それと同時に衝撃的なポスターがあちこちの駅に貼られました。くっきりした黄色を背景に、鴇色に枝垂れ桜の振袖や帯、赤いしごきがしどけなく解けて乱れています。その真ん中に、美しいお姫さまが、明らかに悪そうな男に抱かれている図でした。それなのに、お姫さまの表情は、ふんわりとやわらかく、幸せそうにさえ見えるのです。それが、玉三郎丈の桜姫と、孝夫丈の釣鐘権助でした。何より衝撃的だったのは、権助の足先が、姫の着物の下からにゅっと出ていたこと。

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