バーチャル芝居ゆかりの地めぐり ~伊勢音頭恋寝刃の世界に泊まる~
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バーチャル芝居ゆかりの地めぐり ~伊勢音頭恋寝刃の世界に泊まる~

イヤホンガイド解説者は、解説を担当する演目について様々なアプローチで取材をしています。ときには、その芝居ゆかりの土地を実際に訪ねることも。そんな芝居にまつわる旅のことをお話する「バーチャル芝居ゆかりの地めぐり」。

今月の国立劇場でも上演されている伊勢音頭恋寝刃いせおんどこいのねたばゆかりの地・伊勢へ訪ねたときのことを、飯村絵理子さんが語ります。

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文:飯村絵理子

異世界に迷い込む

夕方近くに到着したと記憶している。
青みがかった光の中に、軒下に吊るされた提灯が溶け合うように光っていた。
古く黒味を帯びどっしりとした木造の建物とべんがらの壁。
向こうは視界が開けていて、山が見えた。建物横の道は長く下がっていく階段となっていて、ここが丘の上だと分かった。階段の上には道を挟んだ建物に架けられた渡り廊下。
それまで車がビュンビュン通る道を歩いていたので、千と千尋ではないけれど、どこか異世界に迷い込んだ気がした。

というのが、もう随分と以前に宿泊した「麻吉旅館」の記憶のひとつだ。
麻吉旅館はかつてお伊勢参りの後の「精進落とし」の場所として賑わった、古市遊郭の面影を唯一残す場所。創業は明らかではないそうだが、江戸時代中期・天明2年(1782 )に発行された「古市街並図」には「花月楼麻吉」という名で記されている。弥次喜多でお馴染みの東海道中膝栗毛にもその名がある。

当時は三層楼の建物だったようだが、その後、増築がされて、現在では5階建。ただしビルのように重ねられた5階建ではない。「懸造かけづくり」と言って、崖の斜面に沿うようにして建てられている。そのため、到着した玄関のある部分を眺めると、一見、総二階のように見える。しかし、そこから崖下に向かって階段のように3階から1階まで建物が建てられている。築200年を超える登録有形文化財の宿だ。

麻吉1

歴史的で独特な風貌の麻吉旅館


珍道中

なぜ、麻吉旅館に泊まったのか。それは、伊勢音頭恋寝刃の舞台「油屋」があった古市遊郭の空気を体感してみたかったからだ。なんて言ったら歌舞伎の解説者っぽい。しかし残念ながら、この旅をしたのはもう十余年は前のこと。「歌舞伎? うん、好きですよ〜」くらいの時期で、そんな勤勉さはどこにもなかった。ただ「遊郭の建物が残ってて泊まれるのか!」という一点でお伊勢参りの宿に選んだだけだった。

ちなみにこの旅の目的は、もちろんお伊勢参り。恋愛に悩んでいた友人と人生に血迷っていた私の弥次喜多コンビで、外宮を参拝したのち内宮へ向かうも、参拝前におかげ横丁でお酒を一杯あおるという不信心なことを行なったためか、参拝時に私だけお賽銭が跳ね返されるという、ある意味奇特を体験した。(神宮にお賽銭箱はなく、白い布が張られている)
牡蠣小屋で焼き牡蠣をたらふく食べ、「女性の願いを必ずひとつは叶えてくれる」と言われる鳥羽の神明神社の「石神さん」に詣でたり。いわゆる女子旅であった。

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外宮の最寄り・伊勢市駅のホーム


古市遊郭と伊勢音頭

話を戻そう。

麻吉旅館のある古市はかつて、江戸の吉原、京の島原、大坂の新町、長崎の丸山とともに五大遊郭のひとつに数えられた。外宮と内宮の間の丘陵「あいの山」の街道沿いに、最盛期には妓楼(遊女屋)70件、浄瑠璃小屋も数件建ち並び、遊女は1000人に上ったと言われる。
「伊勢参り 大神宮にもちょっと寄り」と川柳に読まれるほど、江戸時代の人々にとって魅惑の歓楽街だった。

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