
忘れられないあの舞台! ~一番古い歌舞伎の記憶 六代目菊五郎の伊左衛門~
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今回は、解説者が想い出の舞台について語る「忘れられないあの舞台!」。
ご担当は髙木美智子さん。ふるさと 名古屋で観た、忘れられない名役者・名舞台をお話しいただきました。
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文:髙木美智子
小学一年の終わり頃に見た 六代目尾上菊五郎の「夕霧伊左衛門」は私にとって「カルチャーショック」でした。それまでに観た芝居の記憶はすべて消え失せ、初めての素晴らしい芝居として鮮明な記憶となりました。
華やかな「夕霧伊左衛門」
私は名古屋で生まれ、昭和二十年正月の空襲で焼け出され、瀬戸市に引っ越しました。芝居好きの母や祖母に連れられて幼いころから歌舞伎を観ていた私は、「その時」も、祖母と当時教えを受けていた踊りのお師匠さん (坂東流) と一緒に、名古屋へ歌舞伎を観に行きました。
「夕霧伊左衛門」(中学生になって、それは『廓文章 吉田屋』と解かりました)の幕が開き、門松のある門口、まずその美しい舞台面に目を奪われました。終戦直後の、現実の正月風景からは遠い華やかさです。
心を掴まれた伊左衛門
そして伊左衛門が出てきた途端、その日の他の演目は私の記憶から消えてしまいました。
編笠をかぶり、紫地に文字散し模様の着物姿に見とれてしまいました。そして祖母の「六代目の着ているのは紙衣(かみこ)といって、紙でできているんだよ」の言葉は私の心臓を鷲掴みにしてしまいました。
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