
歌舞伎の沼からこんにちは。~私はこうして歌舞伎にハマった~ #7
イヤホンガイド解説者たちが、歌舞伎や文楽の魅力にハマった経緯や芝居への愛を語るシリーズ「歌舞伎の沼からこんにちは」。
7回目の担当は、飯村絵理子さん。曰く、「歌舞伎の沼には、実はあんまりハマっていない」とのこと…。さあ真相はいかに!
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文:飯村絵理子
沼にハマったかと問われれば、ハマったことはないと言い返す。
ドロドロぐちゃぐちゃねっとりしたところは、執念深いサソリ座だけれど、好きじゃない。
時空間に魅了される
初めて歌舞伎に触れたのは、高校卒業したての頃だったと思う。叔母がチケットを取ってくれて、観たのは『小笠原騒動』@新橋演舞場。
客席内を走り回る立廻り、暗がりに浮かび上がる白塗り、聞いたことはないのに身に入り込むセリフのリズム、心を高揚させる附けの音、役者のやたらかっこいい決めポーズ。
物語がどうとか、そんなことは抜きにして、その場にある歌舞伎の時空間にとても魅了されたことを憶えている。
歌舞伎座近辺をうろつく大学生
それから、私の好む世界に「歌舞伎」が入り込んできた。
高校卒業後、美術予備校に通いつつ、たまにチケットを取っては、一人で歌舞伎へ。とはいえ、全く頻度は高くない。今もそうだけれど、もともと興味散漫。「あれが好き、これが好き」も広く浅くで、通り過ぎたら簡単に忘れてしまう。思い出したら、また手に取って眺める程度に接するのが好きなタイプなのだ。
だけれどなんだかこだわりが強くて、フラフラしてたら浪人二年。入った美大の入った学部は、アングラだからか夜しかない。昼間は必然、バイトをする。
どこで働こうかと考えた時、真っ先に、「歌舞伎座が近いところがいい」と思った。その理由は、歌舞伎が見たいわけではない。歌舞伎を取り巻く時空間が好きで、歌舞伎座の佇まいが好ましいから、頻繁に眺められる場所にいたいと思ったからだった。そうして、銀座7丁目の料理屋でランチバイトをし、時間があれば歌舞伎座近辺をうろつく。夜は帰宅する人々を尻目に大学へ行くという生活をした。少しだけ。
蕎麦の沼
歌舞伎座で好きだったのは、「歌舞伎そば」だった。初めて行った時のことはよく覚えている。