解説者の本棚から ~名優の肉声がよみがえる、歌舞伎役者問わず語りの芸談本~
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解説者の本棚から ~名優の肉声がよみがえる、歌舞伎役者問わず語りの芸談本~

歌舞伎について膨大な知識量を持つ解説者の皆さん愛読の本をちらっと覗いてみる、「解説者の本棚から」シリーズ第2回。

今回は齋藤智子さんがおススメの芸談本をご紹介してくださいました。
どうぞお楽しみください!

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文:齋藤智子

私たちは、いつも客席から舞台を見ています。京都・南座の舞台体験ツアーに参加した知人に聞いた話では、実は、舞台の上からも、客席をよく見晴らせるそうです。私たちが舞台に熱い視線を送るのと同じように、役者の皆さんもご見物の皆さまをつぶさに見つめているらしいです。

客席から舞台を見守る非・役者が歌舞伎の魅力を語るのが、イヤホンガイドなどの歌舞伎解説。一方、舞台上にいる役者本人の口から語られる解説を「芸談」と呼びます。舞台にいる人間にしかわからない視点と内面の動き、その言葉の端々から日々の研鑽がにじみ出る芸談本は、多少専門的にはなりますが、プロフェッショナルの裏側をのぞくようなわくわくがあります。

ということで、歌舞伎にまつわる本をご紹介するシリーズ、今回は、歌舞伎役者が自ら歌舞伎を語る、問わず語り本をご紹介します。問わず語りというのは、「ひとりで語る、独り言」といったような意味あいです。ですから、問わず語り本とは、喋り言葉を文章に仕立てた聞き書き本のことです。書き言葉ではなく、役者さんの身体感覚に近い言葉づかいですので、読んでいるうちに、その美しい口吻がよみがえってくるのが魅力です。

今回は、とくに物故した名優たちの独り言を集めました。もう生の舞台を見ることは叶いませんが、喋り言葉の問わず語り本は、読んでいるうちに、かれらの肉声が蘇ってくるかのような喜びがあります。
それでは、家の芸、踊り、女方、脇役、などそれぞれのジャンルで、問わず語りをお楽しみください。

歌舞伎イラスト


家の芸って、なんだろう?

『團十郎の歌舞伎案内』
市川 團十郎(十二代目) 著、PHP研究所、2008年《PHP新書 519》

『團十郎の歌舞伎案内』は、2007年、十二代目市川團十郎が、青山学院大学で行った「歌舞伎の伝統と美学」という講義を再構成した本です。
小学校から高校まで青山学院で学んだ十二代目にとって、いわば後輩に向けての講義でした。そのせいなのか語り口がアットホームで、楽しんで話をしているのが伝わってきます。このとき十二代目は、すでに白血病という病を得た後で、「与えられた時間を歌舞伎に費やしたい」という思いがひしひしと伝わってきます。

十二代目が初代からはじまり團十郎の代々を語ることは、すなわち、歌舞伎の歴史を語ることになり、成田屋の家の芸である『勧進帳』『鳴神』の裏話が歌舞伎の演技論になっていきます。家の芸という極めて内向きのパーソナルな技能を語ることが、歌舞伎全体の話に広がっていくところが、さすが成田屋、「でっけえ」の一言に尽きます。歌舞伎初心者から歌舞伎通まで、広くお楽しみいただけます。

鳴神上人

勧進帳

上:豊国「鳴神上人」
下:香蝶楼豊国「勧進帳 武蔵坊弁慶・富樫左衛門」


歌舞伎の踊りは、どう見ればいいの?

『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』
坂東 三津五郎(十代目) 著、長谷部 浩  編集、岩波書店、2015年《岩波現代文庫》

ご存知の方も多いと思いますが、坂東三津五郎家は、江戸時代から続く踊りの名手のお家です。もともと女方の芸として始まった歌舞伎舞踊に、立役が踊る舞踊や変化舞踊を付け加えたのが、三代目の坂東三津五郎でした。この新しい試みによって、舞踊がより広まったと言われています。

江戸時代の舞踊を浮世絵などを頼りに復活させた功績でも名高い十代目三津五郎が、歌舞伎舞踊を語るのが『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』です。『喜撰』『流星』『棒しばり』など大和屋ゆかりの踊りについて、「こんなところを見てください」「こんなところに注意して踊っていますよ」と、見物の皆さんに、直接、伝えているような語り口です。

生前の十代目は、若い役者に対して、理路整然と、順序だてて稽古をつけることで定評があったとか。そのきちんとしたていねいな性格が、ご著書からもよく伝わります。

日本舞踊


女形って、どんな練習をするの?

『女形の事』
尾上 梅幸(六代目)著、秋山 勝彦  編集、中央公論新社、 2014年《中公文庫》

明治を代表する名優・五代目尾上菊五郎の養子が、六代目尾上梅幸です。明治後期から昭和初期にかけて、女形として一時代を築きました。情感あふれる芝居で人々を魅了し、舞台の上で倒れてそのまま戻らぬ人となりました。倒れたその時に、無意識に裾の乱れを気にしたという「あっぱれ女方」とでも言うべき逸話が残っています。

『女形の事』には、題名どおり、梅幸による女形としての心得がぎっしり詰まっています。ガチの演技論です。たとえば、

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