イヤホンガイド【観劇に+αの楽しみを!】
バーチャル芝居ゆかりの地めぐり~『与話情浮名横櫛』聖地巡礼~
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バーチャル芝居ゆかりの地めぐり~『与話情浮名横櫛』聖地巡礼~

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芝居にまつわる土地をめぐる旅のことをお話する、「バーチャル芝居ゆかりの地めぐり」。今回は五十嵐大祐さんが『与話情浮名横櫛』ゆかりの地、木更津へ「聖地巡礼」として巡ったお話を語っていただきました。どうぞお楽しみください!

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文:五十嵐大祐

数年前、はじめて「聖地巡礼」という言葉を知りました。それまで私のイメージする聖地巡礼は、学生の頃の授業で習った宗教的な意味合いのものでしたが、近年はアニメやマンガの舞台になった場所を訪ねる、「ロケ地巡り」を「聖地巡礼」と呼び、ブームになっているとの事でした。
巷では長編アニメ映画「君の名は。」が大ヒット。歌舞伎でも市川猿之助が漫画「ワンピース」を舞台化して話題になり、アニメやマンガ好きのインバウンドまでその「聖地」に押し寄せ、アニメツーリズムが一大産業になっていた2016年頃の話です。

歌舞伎版聖地巡礼を体験

「聖地巡礼」という言葉こそ最近ですが、その歴史は古く18世紀のイギリスで富裕層たちが、W・シェイクスピアなど当時の文学作品の舞台を旅する「グランドツアー」がそのルーツになっています。それが現代では映画やドラマ、アニメや漫画の「聖地巡礼」へと発展してきましたが、歌舞伎における「聖地巡礼」はどうでしょう?例えば熱海では、尾崎紅葉作『金色夜叉』の貫一とお宮は、作品のブームから二人の銅像が作られ、今ではご当地のシンボルになっているように、歌舞伎の登場人物達もその所縁の地で親しまれているのでしょうか?それを実際に自分の目で確かめるべく、歌舞伎版「聖地巡礼」の旅に出てみました。

貫一お宮

『与話情浮名横櫛』の舞台の地、木更津

一番行きたいと思ったのは、大好きな演目で、歌舞伎十八番のひとつ、『勧進帳』の安宅の関。しかしコロナ禍で遠出が憚られる昨今、東京住みの私には、安宅の関(石川県小松市)はあまりに遠く、今回は断念。浅草に行けば色々ありそうですが「巡礼」と呼ぶには近すぎます。そこで東京の近場で歌舞伎と縁が深く、巡礼気分も味わえて、かつ食べ物も美味しそうなところ(これも重要)…と考えた結果、千葉・木更津に白羽の矢(?)を立てました。木更津は現在も上演される人気演目『与話情浮名横櫛』の舞台となった地です。

この芝居は実に8幕40場に及ぶ超巨編の物語で、その中でも主人公の与三郎とお富が初めて出会う『木更津見染めの場』は、今でも上演を続ける人気の一幕です。学生の頃、旧歌舞伎座で仁左衛門・玉三郎の「孝玉コンビ」で与三郎・お富を観た時は、一階席を潮干狩りで賑わう木更津の浜辺に見立て、二人が客席を練り歩きながら会話を交わすという、御見物にはたまらない演出があり、私は幕見席から羨ましく眺めた事を思い出します。木更津と言えば、大人気TVドラマで映画化もされた『木更津キャッツアイ』の「聖地」でもありますね。

いざ巡礼へ

というわけで、出発。東京駅から木更津へは、京葉線に乗って内房線に乗り換えて…と思ったら、高速バスに乗り、海ほたるで知られるアクアライン経由で行ってみると、わずか1時間足らずで木更津駅前に着いてしまいました。「聖地巡礼」は、多少の苦行も伴うものだと思っていただけにこれには少し拍子抜け。平日の昼間、駅前は人はまばらというよりほぼゼロで、夜のお店のネオン達がそこら中で力なく光っていました。木更津の街が本領を発揮するのは夜なのかも知れません。駅前通りをてくてく歩いて行くと、道すがら「与三郎通り」と書かれた大きな看板を発見。イラストで描かれたサムライ風の男は、首から豆絞りの手拭いをかけた、まさしく「切られの与三」。看板は古びて剥落しており、それがかえって与三郎の切り傷に見えるという謎の効果を生んでいました。

与三郎通り

与三郎と蝙蝠安のお墓

通りのすぐ先が光明寺という南北朝時代から続く古刹で、ここに与三郎の墓があります。物語では与三郎とお富は木更津で別れた3年後に江戸で再会するのですが、なぜ木更津にお墓が?と思っていると、これはいわゆる拝み墓とのこと。私のような聖地巡礼者への「親切」のために建てられた模擬墓で、実際の与三郎(長唄の四世芳村伊三郎)の墓は、旧東海道・品川の天妙国寺にあるそうです。調べてみると私の実家の近くで、つまり偽物を見るためにわざわざ木更津まで来たのかと複雑な気持ちになりましたが、ここを詣でなければその事実を知ることもなかった訳で、これも良しとしました。

木更津 与三郎の墓(模擬墓)

この光明寺の隣には、選擇寺せんちゃくじという、与三郎の相棒、蝙蝠安が眠るお寺があります。こちらは本物。しかし、蝙蝠安のモデルとなった、山口瀧蔵やまぐちたきぞうは「芝居中の人物像とは異なり、実際はかなりの男振り、油屋・紀の国屋の若旦那で金回りも良く、天性の美声を持つ花柳界の寵児といわれるほどの人物」だったそうです(選擇寺の説明書きより)。芝居の話とはいえ、「花柳界の寵児」を、「夜な夜な強請たかりを働く悪党」に仕立てるという、作者・瀬川如皐の筆の力には頭が下がる思いです。墓の横には大きく「蝙蝠安の墓」と書かれていましたが、これをいま本人はどう思っているのでしょう。

蝙蝠安の墓

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