《キニナル歌舞伎》戸隠の鬼女伝説、「紅葉狩」のルーツを探る。
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《キニナル歌舞伎》戸隠の鬼女伝説、「紅葉狩」のルーツを探る。

「イヤホンガイド解説者のひろば」新シリーズ《キニナル歌舞伎》、歌舞伎の中の「気になる!」ものに焦点を当ててお話を広げていきます。
今回は鬼ブームに乗っかり、齋藤智子さんと共に歌舞伎に登場する「鬼女」について注目していきましょう!


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文:齋藤智子

なぜ、いま、鬼ブーム?

鬼ブーム、キてます。2020年は、『鬼滅の刃』が空前のヒットを記録しましたね。振り返れば、これまでにも、鬼が流行した時代がありました。たとえば疫病が蔓延した奈良時代には、古代インドの鬼神が仏教に帰依した仏像が作られています。どうやら、厳しい世相であればあるほど「鬼」モノが流行るという法則(必然?)があるようです。しんどい浮世だからこそ、虚構のなかで地獄からの使者・鬼を退治して、勇気をもらったり、夢を託したりするのでしょうか。

歌舞伎にも、たくさんの鬼が登場します。
なかでも歌舞伎舞踊『紅葉狩』に登場する鬼女は、色香が漂いつつ、物悲しさもあり、すぐ退治するには、もったいないような存在感があります。それもそのはず、この戸隠山の鬼女には、実在のモデルがいるのです。
ということで、今回は、『紅葉狩』に登場する更科姫(正体は鬼女)のルーツとなった、長野県は戸隠の鬼女伝説に注目してみましょう。

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『紅葉狩』の舞台である戸隠山は、「古事記」の天岩戸伝説で天照大神が
お隠れになった天岩戸(あまのいわと)が飛んできて出来あがった山、と伝わる。イガイガした頂が、いかにも想像力を刺激する。
戸隠山の麓にあるのが戸隠神社。天照大神を岩戸の外に引っ張り出した天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)をはじめ、天岩戸の神話にちなんだ五柱の神様が祀られている。
「紅葉狩」に登場する山の神とは、戸隠神社におわす神様も含め山そのものをご神体と見立ててのことか。


逢魔が時に上演されていた「紅葉狩」

戸隠の鬼女伝説をご紹介する前に、お能を下敷きにした松羽目舞踊『紅葉狩』の筋からおさらいしましょう。
お話は、都の武者・平維茂(たいらの これもち)が鹿狩りをしようと、信州は戸隠の山奥へ分け入ったところから始まります。維茂一行は、紅葉が盛りの戸隠山で、帳幕を張った婦人たちに出くわします。紅葉狩を楽しむ高貴な赤姫・更科姫は、維茂を酒宴に誘います。はじめは遠慮していた維茂ですが、誘惑にはあらがえず、すすめられるままに酒を過ごすと、ゆるゆるとまどろんでいきます。ところが、です。維茂が目を閉じると、戸隠山の神が現れて、こう告げます。「更科姫とは世を忍ぶ仮の姿。実は、その女、戸隠山に棲む鬼女である」維茂は、この夢が神様のお告げだと悟ります。維茂が覚醒すると、あれだけたおやかだった更科姫は、すでに姫らしい着物からぶっ返り、鬼の隈取をとって鬼女の本性を表しているではありませんか。
維茂は、神の威徳が宿った刀・小烏丸(こがらすまる)を手に、鬼女へ立ち向かっていくのでした。

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