忘れられないあの舞台! ~色鮮やかな3人の女方たち~
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忘れられないあの舞台! ~色鮮やかな3人の女方たち~

今回は、解説者が想い出の舞台について語る「忘れられないあの舞台!」。
ご担当は松下かほるさん。松下さんが出会った三人の名女方のお話をお楽しみください。

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文:松下かほる

子供の頃の芝居の記憶

私が子供の頃、よく母は親友と一緒に芝居を見に行った時の話をしてくれたのですが、私自身にはその時の確かな記憶はまったくありませんでした。子供の私は、観劇中に声をだして登場人物の出入りの実況中継?をしていたそう。母は私の口をおさえ、身の縮む思いをしたようです。そして、「この子が大きくなるまでは、もう芝居は見られない」と思ったそうです。

が、その後、母の意志に関係なく芝居を観られない時代になってしまいました。戦争が激しくなり田舎に疎開したからです。東京の家は空襲で焼けてしまい、疎開先から戻って来ることも出来なくなりました。様々な事情があり、やっと東京に帰れたのは戦後五年も経ってからで、私には六代目尾上菊五郎も初代の中村吉右衛門も、観るチャンスはありませんでした。当時はまだ、敗戦の傷跡があちこちに残っていました。


私を歌舞伎の「とりこ」にした 六代目 中村芝雀

そんな或る時、父が歌舞伎座のチケットをくれたのです。父の友人が仕事の関係者を招いた観劇会のチケットでした。その頃、私はせっせと宝塚に通っていたのでしたが、歌舞伎のチケットに胸が躍りました。一階のいわゆる「と、ち、り」と呼ばれる良い席でした。

当時は、今と違って席は前から何列目かを「いろは」で表していました。「い列の何番」「ろ列の何番」といった具合で、と、ち、り(と列~り列)には、見やすい席の意味がありました。

物心ついて初めての歌舞伎でしたが、開演しても意外と落ち着いて淡々と見ていました。当日の演目の一つに『御所桜堀川夜討』、通称「弁慶上使」がありました。

「弁慶上使」は源平の戦いの後の物語です。源義経の奥方 卿の君は義経の子を身籠もり、乳人の侍従太郎の館で静養中でした。が、突然、「卿の君の首を討って差し出せ」と言う頼朝の命令を伝えるため、弁慶が上使としてやって来ます。なぜなら卿の君は敵である平家方の娘だったので、頼朝は「義経には自分に対して謀叛の心があるのではないか」と疑ったのです。そのため、侍従太郎は卿の君の身代わりとして腰元の信夫(しのぶ)の首を討って差し出すという苦渋の決断をするのでした。

さて、その身代わりとなる腰元の信夫の役を演じたのが、六代目の中村芝雀、後の四代目中村時蔵。現在の五代目時蔵さんのお父様でした。

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